「アンタが――欲しい」
潤んだ瞳が、まっすぐ私を見つめていた。
「――何度も言ってるでしょ」
体を起こそうとすれば、雅さんは退いてくれた。上半身を起こすなり、私は以前と同じく、髪を右側に束ね左肩を露にする。
「血が欲しいならあげる、って。――でも、本当にお腹壊されたら困るから、まずは試した方がいいんじゃない?」
手を差し伸べ言えば、雅さんは怪しい笑みを浮かべながらその手を取った。
口元に持っていくと、ちゅっ、と手の平にキスをされる。甘噛みを何度かし、いつ噛まれるのかと思えば――ちくっと、痛みが走った。
「――不味い?」
「ちょっとな」
「やっぱり毒があるから――?」
急に視界が塞がれる。
背中に手が回され、それで今、私は抱きしめられているとわかった。
「…………今度は体?」
怪訝そうに聞けば、抱きしめる腕に力が込められる。
「…………わかるかよ」
戸惑う声。その様子に、雅さん自身もにこういう状況が初めてなのかと思えてくる。
「ひとまず離して――?」
ぐらっと、目の前が揺れる。
言葉をかけたいのに、薬が利いているのか、目蓋が重い――…。
雅さんが何か言ってるようだけど、それに答えることはできなくて――景色は、そこで消えてしまった。
――――――――――…
――――――…
―――…
次に目を開けた時、私は以前着たことのある洋館に来ていた。
地下への扉はもう無くて、どこに行けばいいのかと迷っていたけど、上へと続く階段を見つけ、私はひとまず、上を目指して行くことにした。
「――、――?」
声が聞こえる。どの部屋からだろうと探してみると、少しドアが開いた部屋をい付けた。近付くと、声はその部屋から聞こえているようだった。
そっとノブに手をかけ、そっと中を覗く。
「――分かった? これが先祖の話。私たちは、罪な種族」
そこには、二人の人物が向かい合わせに座っていた。
一人は前に見た女性で、その人の目の前には、さっきまで一緒だった少年がいた。
ドアを閉めると、私は二人のそばに行き様子をうかがった。
「……罪な、種族」
「そう。私たちはいずれ、償う時が来る。だからそれまで、あいつらに従っているしかない」
「従う? でも、いつかは裏切る?」
「少し……違うわ。貴方は、貴方の意思で生きるの。そうねぇ~、誰か大切な人が現れれば、きっと分かる時がくるわ」
すると少年は、無表情のまま、首を傾げた。
「大切……? 自分の意思……?」
「今は、分からなくていいわ」
「それ――前にも言われた」
「あら、もう現れてたのね。きっとその人、また貴方に現れるはずよ……ね?」
ふと、女性と視線が交わる。
それは私に言った言葉なのか。女性は微笑みかけ、何か言葉を口にした気がした。
けれど、その声は聞こえることはなくて。何を言っているのか聞こうとした途端……目の前は、暗闇に包まれてしまった。
さすがにこう何度も体験すると、驚くことも無くなってくる。
――次にいたのは、洋館の外。
再び二階の部屋へ向うと、さっきと同じ様子で、二人が話をしていた。今度は数年経っているのか、少年の姿は、私と同じぐらいになっている。
顔はぼんやりとしてよく見えないけど、その背格好が、誰かに似ているような気がする。



