「――アンタ、村の人間が憎くないの?」
薬を調合する私に、窓から顔を覗かせながら雅さんは聞く。
「恨みはあるけど、しょうがないって気持ちもあるわ。理解できない人や物を怖がるのは、自然なことだもの」
「自然、ねぇ……。そんなんじゃ、いつか殺されるぞ」
「その時はその時よ。生きていれば、いつか訪れるものだし。――いや。死に至る為に生きてるって言う方が正解かもしれないわね」
笑って言えば、雅さんは窓から家に入るなり、まじまじと顔を見てきた。
「――――なに?」
「本気で笑ってるかの確認」
「嘘なんてついて、私になんの得があるって言うの?」
「――ってか、前に血をくれるって言ったのも本気だったのか?」
「だから、欲しいならあげるって言ってるでしょ? でも、今はダメね」
「なんだ、やっぱり怖くなったのか?」
手を休め、私は大きなため息をはいてから、雅さんと向かい合う。
「今、薬を作る為に毒を飲んでる。吸ってもいいけど、あなたがお腹を壊すことは確実よ?」
「っ!? 毒って……アンタ、平気なのか?」
「多少はね。昔から色んな物を飲んでるから、体が慣れてるの」
「ってか、そんな血飲んだら、腹壊すだけじゃすまいだろう」
「どうかしら。試してみる?」
左の首筋を露にする。
ため息をつく雅さんは、私の行動に呆れているようだった。
「イヤだね。そんなマズイのお断り」
「だったら数日待ちなさい。そうしたら、毒は抜けてるはずよ」
薬作りを再開する私は、今まさに、解毒となる物を調合していた。
心の中で、早めに毒を抜いておかないと、という気持ちがわいてくる。
雅さんの為に、早く血をあげようとしているように感じた。
「――ホントにアンタ、吸うのは構わないんだな。もしかして経験済み?」
「そんなわけないでしょ。あなたが吸うなら、それが初めてになるわ。――よし、っと」
できた薬を、一つまみ口に含む。味はとても苦い。でも、その後にスーっと爽やかな心地が口に広がった。
「できたのか?」
「多分ね。――う~ん。この味をどうにかしたいところね」
二つまみほどの量を飲むと、ベッドに横になった。このまましばらく休んで、本当に効くかの経過をみる。
「?――――どうしたの」
休んでいれば、雅さんが頭に触れてきた。
いつもは帰って行くのに、なぜか上に覆いかぶさってくる。
「あなたから触れるなんて――珍しい」
いつも、雅さんは私との間に一定の距離を保っている。なのにこんなに近付くなんて、何がしたいんだろう?
「ホント――珍しいよな」
「自分のことなのに。――そんなに血が欲しいの?」
「ん~半分当たり、かな。オレも、こーいうの初めてだし」
その時の表情は、とてもやわらかで。雅さんは初めて、私に違う顔を見せた。
「アンタって面白いから――もっと色々したくなってきた」
「体が目当てなら、そういう場所に行きなさい。あなたの容姿なら選び放題でしょ?」
「あーゆうのに興味ない」
それきり、互いに黙ったまま。
ただ見つめ合っていれば、雅さんがふっと口元を緩め、
「他は――いらない」
艶やかな音声が、耳元で囁かれる。



