久遠の花〜blood rose~雅ルート


 ◇◆◇◆◇

 薬を断って、二日目の夜。
 痛みの感覚は長く、数分だったのが数十分になり、痛みも増してきてる。

「……、……っ!」

 次第に、声を出すのも苦しくなって。
 息をするのも、目を開けているのも――全てが、痛みに感じてしまう。



『―――…、から』



 どこからか、声が聞こえる。
 前に聞いたことがある優しい声に、私は自然と、その声に神経を集中していた。



『―――行くから』



 声が、はっきりと聞こえだす。それは女性の声で、大人の女性といった印象を受ける。



『もうすぐ――行くから』



 途端、私は飛び起きた。
 嫌な感覚……何がどう嫌なのか説明できないけど、とてつもなく嫌なものが、全身を包んでいた。
 声に集中していたせいか、今は少し、痛みも和らいできていた。
 気分を変えようと、起き上がりそばの窓を少し開けた。



「――――はぁ~…」



 大きなため息が出る。
 あとどれぐらい耐えればいいのか……次の痛みを思うと、気分が滅入ってしまう。

 ――ブー、ブー。

「っ!?――スマ、ホ?」

 ただのスマホの音に、やけに驚いてしまった。どうやらまだ、神経が過敏になっているらしい。
 ベッド横にある机。そこに、私のスマホは置かれていた。手に取れば、先生からのメールが。そこには、これから叶夜君が迎えに来るというメール。文章はそれだけで、余程急ぎのことでもあったのかと心配になってくる。

「っ――――はぁ」

 また痛みがきたわけじゃないけど、上半身を起こすだけでも、結構体力を消耗してしまったらしい。
 横になれば、心地よい眠気がやってくる。でも、今は寝てしまうのはダメ。せめて叶夜君が来るまでと、目蓋に力を入れた。



「何も……されてないか?」


 
 声が聞こえ、視線を向けて見れば、窓から叶夜君が入ってきた。
 何をそんなに心配しているんだろうと思えば、

「悪いが、今は黙ってオレと一緒に来てくれ」

 必死な様子に、私もただ事じゃないと感じた。
 頷くと、叶夜君は私を抱え素早く飛び出す。以前とは比べものにならない早さに、しっかり抱えられているってわかっても、怖さを感じてしまうほどだった。

「悪い、もう少し我慢してくれ」

 気遣う言葉に、私は叶夜君の服をしっかりと掴んでいた。
 連れて行かれたのは――叶夜君の家。
 テレビでしか見たことがないような日本家屋で、部屋はもちろん畳。庭には余計な物がなく、砂利が敷き詰められた、まさに完璧な和風の家だった。

「ここに、座っててくれ」

 そっと私を下ろすと、叶夜君は襖(ふすま)を開けた。何をするのかと思ったら、叶夜君は布団を敷き始めた。

「今日は、ここで休んでてくれ」

「なに、か――あっ、た?」

 なんとか声を出して、質問した。
 雰囲気からして、よくないことが起きたんだっていうのはなんとなくわかる。

「ミヤビと同じ種族が、人間から血を抜いたり、殺したりしているらしい。今あいつに連絡が取れないから、もしものことを考えてここに来てもらった。まだ雅がやったって証拠はない。だが――あいつは、過去に多くの人間を殺している」

 途端、積み上げられた死体の上に立つ姿が頭を過った。
 全身血だらけで、地面は血の海で――…。