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薬を断って、二日目の夜。
痛みの感覚は長く、数分だったのが数十分になり、痛みも増してきてる。
「……、……っ!」
次第に、声を出すのも苦しくなって。
息をするのも、目を開けているのも――全てが、痛みに感じてしまう。
『―――…、から』
どこからか、声が聞こえる。
前に聞いたことがある優しい声に、私は自然と、その声に神経を集中していた。
『―――行くから』
声が、はっきりと聞こえだす。それは女性の声で、大人の女性といった印象を受ける。
『もうすぐ――行くから』
途端、私は飛び起きた。
嫌な感覚……何がどう嫌なのか説明できないけど、とてつもなく嫌なものが、全身を包んでいた。
声に集中していたせいか、今は少し、痛みも和らいできていた。
気分を変えようと、起き上がりそばの窓を少し開けた。
「――――はぁ~…」
大きなため息が出る。
あとどれぐらい耐えればいいのか……次の痛みを思うと、気分が滅入ってしまう。
――ブー、ブー。
「っ!?――スマ、ホ?」
ただのスマホの音に、やけに驚いてしまった。どうやらまだ、神経が過敏になっているらしい。
ベッド横にある机。そこに、私のスマホは置かれていた。手に取れば、先生からのメールが。そこには、これから叶夜君が迎えに来るというメール。文章はそれだけで、余程急ぎのことでもあったのかと心配になってくる。
「っ――――はぁ」
また痛みがきたわけじゃないけど、上半身を起こすだけでも、結構体力を消耗してしまったらしい。
横になれば、心地よい眠気がやってくる。でも、今は寝てしまうのはダメ。せめて叶夜君が来るまでと、目蓋に力を入れた。
「何も……されてないか?」
声が聞こえ、視線を向けて見れば、窓から叶夜君が入ってきた。
何をそんなに心配しているんだろうと思えば、
「悪いが、今は黙ってオレと一緒に来てくれ」
必死な様子に、私もただ事じゃないと感じた。
頷くと、叶夜君は私を抱え素早く飛び出す。以前とは比べものにならない早さに、しっかり抱えられているってわかっても、怖さを感じてしまうほどだった。
「悪い、もう少し我慢してくれ」
気遣う言葉に、私は叶夜君の服をしっかりと掴んでいた。
連れて行かれたのは――叶夜君の家。
テレビでしか見たことがないような日本家屋で、部屋はもちろん畳。庭には余計な物がなく、砂利が敷き詰められた、まさに完璧な和風の家だった。
「ここに、座っててくれ」
そっと私を下ろすと、叶夜君は襖(ふすま)を開けた。何をするのかと思ったら、叶夜君は布団を敷き始めた。
「今日は、ここで休んでてくれ」
「なに、か――あっ、た?」
なんとか声を出して、質問した。
雰囲気からして、よくないことが起きたんだっていうのはなんとなくわかる。
「ミヤビと同じ種族が、人間から血を抜いたり、殺したりしているらしい。今あいつに連絡が取れないから、もしものことを考えてここに来てもらった。まだ雅がやったって証拠はない。だが――あいつは、過去に多くの人間を殺している」
途端、積み上げられた死体の上に立つ姿が頭を過った。
全身血だらけで、地面は血の海で――…。



