もしかして――この人。



 その顔には、見覚えがあった。
 だってその顔は、いつも見ている顔で。



「!? いたぞぉー! ヤツはあそこだ!!」



 兵士たちが、少年を見つけた。
 危ないと口にしようとした途端、またしても景色が歪み始めてしまう。目覚めてしまうと思った私は、無駄だとわかっていても、足掻(あが)かずにはいられなかった。
 消える景色の中、私は何度も何度も、その少年の名前を叫んだ。

 ――――――――――…
 ――――――…
 ―――…

「美咲、美咲っ」

「っ!?――おじぃ、ちゃん?」

「大丈夫。ここに怖いものはないぞ」

「怖い、もの――」

 そういえば――小さい頃にも、こんなことがあったっけ。

「いやなっ、ゆめ――みんな、死んで、く」

「そんなものは忘れなさい。前は否。前は否――」

 頭を撫でながら、おじいちゃんは続ける。

「夢は夢。事世に前は否なり」

 口に、丸いなにかを入れられた。
 甘い花の香り。これは――飴?

「忘れなさい。それは美咲の記憶じゃない」

 飴が溶けていくと、それに合わせて気分も落ち着いていく――。

「眠りなさい。今度は、美咲の夢を」

 私の――夢?
 なんのことだろうと思いながら、私はもう一度、眠りに落ちていった。