「だって……みんながいけないのよ? 私を殺そうとするんですもの」
「それは……姉さんが」
「感染したから? エル……貴方も、私を殺すの?」
「っ! そんなこと……!」
二人のやりとりに、私は目を逸らした。きっと、これから二人は争うと……そう直感した。
『――――見ていて』
それは、とても優しい声。
頭に直接聞こえるこの声は、ブレスレットを渡してくれた時の声と同じ。
『目を逸らさないで……お願い』
目の前にいる女性は、相変わらず少年と話をしている。私に聞こえるこの声とは、別の人なんだろうか?
『もうすぐ……消えてしまうから。理性を無くして、私はただ、血を食らうバケモノになってしまう』
血を、食らう……?
それを聞いて、目の前にいる人と声の主は同じなんだと理解した。
『あの子はきっと、自分を責めてる。お願い……エルを助けて。エルの命を、……心を』
何をすればと思っていると、目の前の二人は、激しいく火花を散らし始めた。
「私に逆らうつもり? 姉を殺すの!?」
「オレは……オレは助けたいんだ! こんなことやめてくれ!」
「エルは感染してないからわからないのよ。この渇きがどんなに苦痛なのか! そうよ……エルも同じになりましょう!?」
そう言って、女性は少年に飛び掛る。素早く腕を掴んだと思ったら、そのまま勢いよく少年を地面に叩きつけた。
「ふふっ、これで少しは……大人しくしてくれるわね?」
念の為なのか、女性はもう一度、少年を地面に叩きつけた。
も、もうやめて!!
声に出したいのに、私の声は、響くことはなく。どんなに叫んでも、口から音声が発せられることはなかった。
「それじゃあ……貰うわ」
ニヤリ、と口元を緩める女性。
少年はピクリとも動かず、ただ地面に横たわっている。
「っ! あ、がっ……!?」
「美味しい……やっぱり、男の血はいいわね」
様子からすると、女性は少年から血を吸っているようだった。
できることなら、目を逸らしたい……だけど、それはしてはいけないことだと思う。
理由なんてわからない。あの人に言われたというだけでなく、自分でもどうしてか、見届けないといけない気がした。
何度も目を逸らしそうになりながらも、ぐっと堪え、目の前の光景を見続けた。
「ねえ、……さん」
「これで……エルも同じよ?」
少年から離れると、女性は嬉しそうに笑う。まるで舞うかのように、楽しそうに跳ねていた。
「いたぞぉー! 雑華の女だ!!」
あっという間に、女性の周りは無数の兵士たちに囲まれてしまう。そんな中でも、女性は笑みを崩さなかった。
「餌がたくさんね。でも……貴方たちはいらない!」
そう言うと、女性は兵士たちに突撃して行った。
武装する相手に対し、女性は素手で相手を殺していく。
それこそ、まるで布ように……簡単に、兵士たちの体を引き千切る。



