久遠の花〜blood rose~雅ルート


「そんな怖がらないで」

「別に、怖がってなんか……」

「少し、震えてるみたいだからさ」

 言われて、私は体が震えているのを自覚した。
 雅さんが怖いわけじゃない。ただ、こんなことは初めてだから。それできっと、緊張してしまっているんだと思う。

「これは……別に、雅さんが怖いとかじゃなくて」

「わかってるよ。緊張……してるんだよね?」

 ぽんっと、頭に手の平が乗せられる。ゆっくり撫でられるそれが心地よく、間近に男の人がいるのに、少しはその緊張も和らいでくる気がした。



「さてと――そろそろね」



 そう言って、雅さんは体を起こす。まだ表情が優れないようだったけど、なんとか体を支えていた。

「大丈夫……ですか?」

「ちょっとはね。ホントはまだくっつきたいけど、早く退いた方がいいでしょ?」

「そ、それはもちろん……」

 体が離れたとはいえ、顔はまだ近くにある。私は目を合わすことができずに、顔を背けていた。

「あれ、なんか名残惜しそうだねぇ~」

「ち、違いますよ! そんなこと、あるわけないじゃないですか……」

「動揺してる。話し方なんか、敬語に戻っちゃってるし」

「そ、そんなつもりは……!?」

 言葉に詰まっていると、そっと、頬に手を添えられた。
 早まっていく心臓。緊張が高まり続けるなか、雅さんは私の顔をくいっと動かし、自分の方を向かせた。



「…………」



「…………」



何を言うわけでもなく、ただじっと……お互い視線を合わせた。というより、言葉なんて出てこなかった。
これは、雅さんの魔眼に魅了されたからなのか。
淡い緑色をした瞳に、吸い込まれるような気分だった。



「美咲ちゃんってさ――好きなヤツ、いる?」



 何を言うのかと思えば、雅さんは唐突に、そんな質問をした。

「特に……いません、けど」

「じゃあ、今特別だなぁ~って思うヤツは?」

「特別、ですか?」

「そう、特別なヤツ」

 優しい眼差しを向け、そっと、頬を撫でる雅さん。その度に心臓は跳ね上がり、体中を熱くさせていった。



「…………わかり、ません」



 そう口にするのも精一杯で、ようやく私は、視線だけでも雅さんから逸らした。

「恥ずかしいの? 相変わらずカワイイ~」

「! そ、そんなこと……別に、私は可愛くなんて」

「美咲ちゃんはカワイイよ。――きっと、みんなそう思ってる」

 途端、真剣身を帯びる声。それに思わず視線を向ければ、

「っ!?」

 目と鼻の先。少しでも動けば唇が触れそうなほど、雅さんの顔が間近にあった。

「あんまりカワイイから……誰にも、見せたくなくなっちゃうね」

 な、なんで急に、そんなこと……。
 何が言いたいのかわからず、私はただ、雅さんの言葉を黙って聞いていた。

「それに……誰にも、触れさせたくないね」

 顔が近付いたかと思えば、雅さんは私の首に顔を埋めた。

「っ!?……み、雅さんっ」

 くすぐったい感覚が、全身を駆け抜ける。何が起きているのかと思えば、温かな感覚が、首筋に強く感じられた。