久遠の花〜blood rose~雅ルート




 ……見ているしか、できないの?



 あまりにも二人の別れが痛々しくて、私は我慢ができず、涙を流していた。



「貴方は……命華ですね?」



 紛れもなく、それは私に語りかけられた言葉。思わず振り向くと、女性はやわらかい笑みを浮かべていた。

「エルは……生きているのね」

 困惑していれば、女性はゆったりとした口調で続ける。

「貴方が見ているこの世界は現実……本物なの」

「これが……現実?」

 声も聞こえるのか、女性は私の言葉に頷いた。

「遠い過去……貴方は、それを見なくてはいけない。もっとも、勝手に見えてしまうでしょうけど」

「勝手に……? どうしてそんなこと」

「今は、時間が無いわ。また会えるか分からないし――これを」

 女性は目の前に、なにかを差し出す。おそるおそる受け取ると、それは小さな石の付いたブレスレット。それを右手に付けててね、と女性は言う。

「それが、証拠になるから。――エルに見せてね?」

「証拠って言われても。それに私は、エルなんて人――?」

 知らない、と口にしたはずの言葉は音になることはなく。また、目の前の景色が揺らいでいった。途端、このままでは女性と話せなくなると理解した。思わず手を伸ばしたものの、それが届くことはなくて……景色が、全て消えてしまった。

 ――――――――…
 ――――――…
 ―――…

 やわらかい感覚。なんだろうと思い目を開ければ、見慣れた天井が目に入った。
 そっか……雅さんに、送ってもらったんだっけ?
 頭を横に動かせば、そこに誰かがいる気配がした。何度か瞬きしていると、雅さんの顔が。

「ごめんね。そのまま帰ろうとしたんだけど、ガマンできなくて」

「がま、ん……?」

 まだ頭がハッキリとしなくて、どういうことなのかわからない。

「寝かして帰ろうとしたら、美咲ちゃんがうなされててさ。それが心配で撫でてたんだけど――ね?」

「何か……あったの?」

「まぁ~……あったと言えばあった、かな?」

 歯切れの悪い言い方に、私はますます何を言いたいのか分わらなくなった。

「寝ぼけてるのはわかってるんだけど、そっちから来るなんて予想してなかったから」

 戸惑う雅さんに、私はゆっくりと起き上がり、もう一度なにがあったのかと聞いてみた。
 しばらく黙っていたけど、何度か深呼吸をした後、雅さんはようやく口を開いた。

「――美咲ちゃん、オレに抱きついたんだよ」

「私から、ですか――?」

「それでオレも、つい抱き寄せちゃって。またおでこにキスしちゃったんだよね」

 女性には抱きついたけど……もしかして、それが雅さんだったの!?
 恥ずかしさが込み上げた私は、雅さんの顔が見れなくなっていた。

「ゆ、夢を……見てて。女の人に抱きついたってのは、覚えてるんだけど」

「それって、どんな夢だったの?」

 その言葉に、私は言葉を詰まらせた。自分では夢だと思っているけど、女性は遠い過去の――本物だと、そう言っていた。それをどう言っていいものかと、私は頭を悩ませていた。

「自分でも……よくわからないの。女の人と少年が出てくるんだけど、その二人を見てる感じ、かな?」

「それからどうなるの?」

「女の人が「感染してる」って言って。少年に、自分を置いて行くように言うの。女の人が一人になると、私に話しかけてきて……そうだ。確かブレスレットを渡されて」

「もしかして……それ?」

 指差す方を見れば、私の右手には、今話していたブレスレットがはめられていた。
 あれは……本当に本物だった?
 これを見てしまえば、さっきのことがただの夢でないと信じざるをえない。