『ココハ、フィオーレノバショ』
「(ふぃ、おーれ? それって一体……)」
『メイカハ、フィオーレ。サイショノナマエハ、カミガキ』
「(よくわからないけど……命華について、話してくれるの?)」
途端、目の前に温かな色が広がる。
何が起こるのかと見ていれば、声の主は、楽しげに笑い始めた。
『ヨウヤクキタ。アナタハ、アカノメイカ。――サイショノ、カミガキ』
「(赤の……命華?)」
『ソウ。アカノメイカ。サイショノ、カミガキ』
正直、意味がわからなかった。
命華だってことはわかるけど、“赤の命華”や、“最初のカミガキ”って言われても。
『――オルカニキケバ、ワカル』
言い終わると同時。左手が、嘘のように石碑から離れた。
仰向けに倒れる体。起き上がろうにも体力が無くて、すぐに、動かすことはできなかった。
「……っ!?」
左手に、また痛みが走る。でもそれは手の平ではなく、指輪を付けた部分だけが、痛みを感じた。ゆっくり左手を見れば――指輪の石に、色が付いている気がした。
色なんて、付いてなかったよね?
どうしてだろうと不思議に指輪を眺めていれば、
『――シナナイデネ』
そんな言葉が聞こえた。
途端、体が軽くなっていくのを感じた。起き上がってみれば、少しずつだけど、なんとか体も動いてくれそうで。ゆっくり、来た道を戻って行った。
「――――美咲ちゃん!」
「雅さっ!?」
突然抱きしめられ驚いたものの、雅さんが動けることにほっとしていた。
「ホントごめん! こんな痛い思いさせて……」
「もう、大丈夫だから。雅さんは……知ってたの?」
「話には聞いてた。でも、ここまで酷いなんて」
抱き留めた腕を緩めると、雅さんは優しく、私の左手を取った。
「っ、ぁた!」
「あっ、ごめん。――これって?」
雅さんの視線が、指輪に集中する。
色のことを気にしているのかと聞けば、同じことを考えていた。やっぱり、指輪の色は変わっているらしい。
「何か、意味があるの?」
「多分、リヒトさんならわかると思う。戻って聞いてみよう」
「はい。―――あっ」
再び歩き出そうとした時、体から力が抜ける。それに雅さんは、倒れないようすかさず支えてくれた。
「ごめんなさい……。雅さんだってキツいのに」
「オレは平気。抱えるけど、もちろんいいよね?」
その言葉に、私は頷いて答えた。抱えられると、温かさのせいか次第に、眠気に襲われ始めた。
「眠いなら、寝てもいいからね」
「そんな……悪いよ」
「遠慮なんてイイからねぇ~」
やわらかい笑みを浮かべながら、雅さんは優しく、額に唇を落とした。
いつもなら言い返してるけど、慣れちゃったのかな。今はこうやって触れられるのも、悪くないように思えた。
「――嫌がらないんだね?」
不思議そうに、雅さんは私を見る。
別に、普段も嫌なわけじゃない。ただ恥ずかしくて、そういうことは恋人にするものだと思うから嫌なだけで……。
だけど、これを言うと余計にスキンシップが増しそうなので、それは心の中に留めておくことにした。



