「それで、どうして私まで行くんですか?」

「ごめんね、詳しくは来てからって言われてるから」

「おそらく大事な話だろう。わざわざ“三人で”って言ってるようだし」

 よくわからないけど……行かないわけにはいかないみたいだ。二人の雰囲気が、それを物語っている。

「ってかさ――」

 そう口にした途端、雅さんは目を輝かせる。なんだか嫌な予感がした私は、自然と、雅さんから距離を取り始めた。――すると。

「美咲ちゃん、超~カワイイ!」

 満面の笑みで、両手を広げ迫る雅さん。
 抱きつかれる! と感じた私は、咄嗟に前へと身を乗り出し、二人から数メートルの距離をとった。逃れることに成功したものの、尚もめげずに抱きつこうとする雅さん。それを察した叶夜君は、素早く雅さんを取り押さえた。

「ちぇっ。なんでジャマするかなぁ~」

「相手の迷惑を考えろ!」

「だってさ~。メガネしてる美咲ちゃん、超~イイと思わない?」

 指差す雅さんにつられ、叶夜君もじーっと、私に視線を向けた。
 言われるまで忘れてた。確かにまだ、私は眼鏡をかけたままだったんだ。
 慌てて外す私に、雅さんは残念そうな声をもらす。

「せっかく似合ってたのに~」

「お、お願いですから、真面目に話して下さい!」

「怒った顔もいいなぁ~。――やっぱ、欲しいよね」

「!? お前……」

 小さく、雅さんは何か呟く。それを聞いた叶夜君は、どこか険しい表情を浮べた。

「もう帰れ。――お前、おかしいぞ」

「オレはいつもと変わらないよ? おかしいのはアンタだろう?」

 叶夜君の手を払うと、苦しいのか、雅さんの呼吸は少し乱れているようだった。

「雅さん……もしかして」

 発作なんじゃないかと、頭を過った。私なんかより元気にしているけど、二人は、同じ病を抱えていたんだ。

「あ~そっか。美咲ちゃんも知ってたっけ?」

「やっぱり、発作なんですね? だったら無理しちゃダメです!」

 よろける雅さん。それを支えようと近付こうとした途端、

「来るな!」

 大きな声が、私の行動を制した。
声を出したのは叶夜君。不穏な空気に包まれる中、私はどうしていいかわからず、叶夜君の指示に従い、二人から距離を保ったままその場に留まった。

「早く行け。今なら、まだ動けるんだろう?」

「……助けるの? 雑華なんて、王華にとったらジャマなだけなのに」

「……別に。ここじゃ、迷惑がかかると判断したまでだ」

「ふ~ん。ま、大人しくするよ」

 叶夜君から離れると、雅さんは笑顔を見せた。

「オレ、帰るから。――またね、美咲ちゃん」

 軽く手を振ると、雅さんは一瞬にして目の前から消えてしまった。

「一人にして……大丈夫なんですか?」

「あれならまだ大丈夫だ。それより……悪かった」

 何が? と思っていると、さっき私に来るなと言ったことを謝っているらしい。気にしてないからと笑って答えたものの、叶夜君の表情は、どこかすっきりしない様子だった。

「あのう。本当に、気にしなくていいんですよ?」

「さっきのことだけじゃない。――最近、まともに話してなかっただろう?」

 改めて言われると、さっきまで普通に話していたことが、だんだんと恥ずかしい気がしてくる。

「わ、私の方こそ……助けてくれたのに、あんな態度」

「そんなの当然だ。美咲さんは、初めて見たんだからな」

「それでも、やっぱり失礼でした。――本当に、ごめんなさい」

「いや、悪いのは俺の方だから」

「そんな、私の方こそ」

 それから私たちは、お互い謝ってばかりで――気が付けば、お互い笑みをこぼしていた。

「俺たち、謝ってばかりだな。これで解決、ってことにしないか?」

「叶夜君がそれでいいなら」

「当たり前だ。――それで、さっきの話だが」

 途端、真剣な表情になる叶夜君。何の話をするのかと思っていれば、今夜のことについて詳しい話を始めた。時間は、夜の十一時を回ったぐらい。その時間に、叶夜君が迎えに来てくれるらしい。