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「――これが、俺たちの話」



 話し終わった叶夜君は、疲れたような表情をしていた。
 なんとも言えない気分になってしまい、私はしばらく、黙ってしまっていた。

「大丈夫か?」

「……いえ。ただ、悲しい話だなって」

 助けた人たちから責められて、しかも、奴隷のようなって……。
 王華と雑華の人に対する恨みは、計り知れないんだろうなと思った。

「ほとんど昔話みたいなものだから、どこまで真実かなんてわからないがな。――だが、もしこれが本当なら……俺は、償うべきだと思ってる」

 まるで、自分が罪を犯してしまったかのように。叶夜君は、悔しそうな表情をしていた。

「私にできることは、協力します。だからその……そんなに、考え込まないで下さい」

 心配する私に、叶夜君は苦笑いを浮かべた。

「悪いな。気を遣わせて」

「気にしないで下さい。それにしても……その作り手が命華なのはわかりますけど、どうして人間である私が?」

「あくまで俺の予測だが…それも罰なんじゃないか? あえて糧となる人間に命華の力が現れれば、抑制が効かないやつならそこで命華を殺してしまう。そうすれば永遠に、その繰り返しだからな」

「抑制って……じゃあ、本当は叶夜君も」

 我慢をしているの? とは、聞けなかった。
 ただ単に、怖かったんだと思う。襲われるのももちろんだけど、こうして普通に話せなくなるのが、とても嫌に思えた。



「――心配無い」



 優しく微笑む叶夜君に、私は未だ、心配そうな表情を浮べていた。

「俺はまだ発症していないし、何より、産まれた時からちゃんと薬を飲んでる」

「本当に……?」

「あぁ、本当だ。もし発症しても、すぐにどうこうなるってわけじゃない」

「それなら、いいですけど。――雅さんは、どうなんですか? もしかして、私と一緒だと辛いんじゃあ……」

「あいつは――」

「オレのこと呼んだ~?」

 頭上から、声が聞こえる。
 まさかと思っていたら、その声の人物は、私たちの目の前に笑顔で下り立った。

「やはり来たか……」

「オレの話してるんだから、来ないわけにはいかないだろう?」

 そう言って、雅さんは私の隣に腰掛けた。
 またしても、二人に挟まれた状態。今はまだケンカをする様子はないけど、いつ火花が散るのかと冷や冷やしてくる。



「――今夜、三人であの人の所に来いってさ」



 唐突に、雅さんがそんなことを言う。
 話がわからない私に、雅さんは相変わらずの笑顔を向けた。

「今夜、オレたちと出かけてほしいんだ」

「夜中に、ですか?」

「そうだよ。オレとしては、二人きりがいいんだけどねぇ~」

 いつかのような、艶のある声。
 恥ずかしがる私に、雅さんはどんどん距離を縮めてくる。

「ち、近い……です」

「いいじゃんか~。抱き合った仲なんだし」

「――俺の存在を忘れるな」

 そう言って、叶夜君は私を引き寄せる。
 途端、その場の雰囲気が変わるのがわかった。またしても一触即発な状態で……私の心臓は、色んな意味でドキドキしっぱなしだった。

「アンタのじゃないんだからいいだろう?」

「お前のでもないだろうが」

「そ、それより! 話をしましょうよ、ね?」

 叶夜君を引き離し、二人をな宥(なだ)めるように話題をそらす。
 今日は私の声も届いたようで、二人は耳を傾けてくれた。