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 夢を見ていた。
 肩まである茶髪に、紫色の瞳をした男性。その目からは、静かに、涙が流れていた。



 ――――続き、かなぁ?



 見覚えのある光景。それに私は、今朝見た夢を思い出した。

 『全く。少し休んでいれば……何をバカな真似をしておる』

 手の平に刺さった剣を抜くなり、女性は男性の頬を叩く。
 やっぱり、この二人は今朝見た人だ。

 『っ!――――どう、して。アナタが』

 『聞きたいのはこちらだ。後を託されたくせに……なんだその有様は』

 情けないとか、男らしくないとか。呆れた口調で、女性は叱り続けた。
 よく見れば、女性の衣服はぼろぼろ。血や泥で汚れていて、ここに来るまでどんなに大変だったのかがうかがえる。
 でも、それとは対照的に、顔には傷一つ無かった。
 白い肌に、腰まである髪。まっすぐ伸びた髪は黒々と輝き、澄んだ青い瞳を宿した女性には、洗練された〝美〟を感じた。

 『言っておくが、それを使っても死ねぬぞ?――もう、刺され済みだ』

 胸に手を当てながら、女性はどこか悲しげな表情を浮かべる。

 『お前はお前の役目を果たせ。箱の処理は、私が任されている』

 『ですが――』

 『お前の言い分は聞かない。これはシエロの意志だ。それを邪魔するなら――』

 場の空気が、ひんやりする。それは徐々に冷たさを増し、痛いほどの寒い空気に変わっていく。



 『――私は、お前を殺す』



 感情の無い言葉が、言い放たれた。
 男性の喉元に、短剣が向けられる。
 女性の目は本気そのもの。少しでも異議を唱えようものなら、問答無用で喉をかき切る勢いだ。



 『――――全く。アナタという人は』



 観念したのか、男性は渋々ながらも女性の言葉に頷いた。

 『どうせ、それでは死ねないのでしょう?脅しになっていませんが、アナタに従いますよ』

 『では、これらは私が持って行く。――お前も、早く立ち去れ』

 男性の目の前にある箱と短剣を手にすると、女性はあっと言う間に姿を消した。
 残された男性は、名残惜しそうに両手を握りしめながら、また、涙を流していた。

 ―――――――――…
 ―――――…
 ――…

 また――夢を、見ていた。でもやっぱり、目覚めと共にその内容は、あやふやなものとなってしまった。起きたら忘れる、なんてことはよくあるけど、こうも気になる夢を見てるのに忘れてしまうのは、気分がすっきりしない。
 夢を見るのは、その日の出来事、記憶の整理をするからだと聞いたことがある。子どもの頃によく夢を見るのは、起きてる間に処理が追い付かないから、寝ている時に整理をする為。大人になるにつれ夢を見ることがなくなるのは、その処理が間に合うからだと。
 すると、私がこうも夢を見るのは――うまく整理ができない、とか?
 疲れてるのか。それとも脳自体になにか異常があるからなのか。
 今度、上条先生に相談してみよう。