『――メ、イッ』



 どこからか、音が聞こえる。それはとても近い気がするし、とても遠くかもしれない。不思議な感覚を覚える音に、私は神経を傾けた。



 『――メイッ、カ』



 聞こえたのは、“メイカ”という単語。
 あの影が発していた言葉とは違うけど、声の質感は、なんだか似ている気がする。近くにまたいるのかと見渡すも、それらしきものは見当たらなかった。
 ……ここにいても、しょうがない。
 ひとまず、声のする方へ歩くことにした。
 周りは木々があるばかりで、他にはなにも無い。家も見当たらず、このまま歩いていて、誰かに会えるのかと不安が広がっていく。



 ギェー! ギェー!



 妙に不気味な声が、辺り一面に響き渡る。
 途端、さっきまでの声も聞こえなくなり、どこを目指せばいいか、いよいよわからなくなってきた。



 「……帰れるの、かな」



 ここまでくると、弱音の一つも言いたくなる。それでも、歩いていればどこかに着くんじゃないかという思いで歩き続けた。――次第に、痛みを訴える足。素足のまま歩き続けたせいで、足には幾つもの切り傷ができていく。歩くたびに痛みは増し、それは体だけでなく、心をも疲弊(ひへい)させた。



 「だれ、か……。誰かっ、……いませんか!?」



 私の声だけが、辺り一面に響く。それに答える声も無いまま……ただ空しく、声は消えていった。

 「なんで……こんな目に合うの?」

 口にした途端、頬に、暖かいものが伝う。手で拭って見れば、それが涙だということを理解した。
 「ははっ……。なんか、情けない」
 もう、歩くのも疲れた。その場に座り込み、私はまだ溢れ出る涙を拭った。
 ……夢なら、早く覚めてよ。心が、淋しさで押し潰される。



 ――暗い。
 ――冷たい。


 
 心細い気持ちが、どんどん大きくなっていく。



 「――――夢、だよね」



 現状を受け入れたくないと、そんな考えが強くなる。
 体力も限界となり、私はその場で寝転がった。
 もう……このまま寝ちゃおう。
 きっと、目が覚めたら部屋にいる。
 そう自分に言い聞かせ、意識を手放すことにした。

 ――――――――――…
 ――――――…
 ―――…



 「まさかと思ったけど……」



 音が聞こえる。
 でも、眠ることをし始めた体は、すぐに起きてはくれない。

 「息はしてる、か」

 背中が温かい。
 なんとか目蓋に力を入れ開けて見れば、



 「オレが――わかる?」



 緑色の――瞳?
 そんなの、一人しか知らない。