「彼女を誘惑されたら迷惑だ」

 「だから、アンタには関係ないって言ってるだろう?――“オレのモノ”に、手出しするなよ」

 別に、私は誰のものでもないんですけど……。

 「勝手な事を言うな。これ以上の行いは――報告させてもらうぞ?」

 「ははっ、告げ口? でもさ、美咲ちゃんがイヤがってなければ問題ないだろう?」

 「お前の行動事態が問題だ。大方、無理やり迫ってるんだろう」

 うん、それは確かに合ってる。心の中だけでその言葉に頷いていれば、

 「――彼女を渡せ」

 と、叶夜君から意外な言葉が飛び出した。

 「渡せと言われて渡すヤツ、いないよ? これからもっと楽しむんだから、早く用事済ませて消えてくれない?」

 「楽しむって……お前が言うと、別な意味に聞こえるが?」

 「そんなつもりは――あるけどね」

 笑顔全開で答える雅さんに、叶夜君は不満を露(あらわ)にする。

 「それが本気なら、実力行使に出る」

 「そっちこそ迷惑。ジャマせず帰ってよ」

 もうダメだ……ここで言わなきゃ、気が済まない!
 静かに。そして深く息を吸うと、

 「…………いい加減にして」

 両手に力を込め、ゆっくりと、怒りを含んだ声を口にした。

 「今の……美咲ちゃん?」

 「……だろうな」

 雰囲気が違うと感じたのか、二人は口論をやめ、私に視線を向ける。

 「美咲ちゃん……ごめんね?」

 「俺も……悪かった」

 二人の口調が、次第に汗を帯び始める。ほったらかしにしたのを、今更のように気が付いたらしい。肩から手を離し、謝ってくる二人。それに私は、笑顔で二人の顔を見るなり、

 「――ほっといて下さい」

 そう言って、一人家へと歩き始めた。
 慌てて後を追いかけ話しかけてくる二人。でも今は、正直話す気になんてなれない。だから私は、無言を貫くことにした。

 「アンタのせいだからね!?」

 「俺だけじゃないだろう!?」

 「ふんっ。王華(おうか)だから、その辺の空気が読めないんだよ!」

 「っ!……そういうところが、雑華(ざっか)の悪い癖だな!」

 後ろで二人は、また口論をしている。
 聞きなれない言葉が聞こえてくるけど、今はどうでもいい。呆れながら歩いていると、もう自宅が間近に見える位置まで来ていた。

 「……今日は帰って下さい」

 振り返り、二人にこれ以上付いて来ないよう言う。笑顔ではあるが、もちろんまだ内心、怒りは消えていない。

 「分かった。俺たち二人はもう帰る」

 「ちょっと、勝手に決めないでくれる?」

 「いいから来い! それじゃあ、気を付けて」

 「ちょっ、わかったわかった! 帰るって!!」

 首根っこをつかまれながら、雅さんは叶夜君に連れられ(どちらかと言えば引きずられ)ながら、二人は立ち去って行った。

 「まったく。二人は何がしたかったんだろう」

 家に上がるなり、私は私服に着替えた。
 今日から三日間、おじいちゃんは地域の旅行でいない。一人でご飯を食べていると、広い家に私だけなんだと、なんだか淋しい気持ちになってくる。
 ――こんな時は、テレビでも見て気を紛らわそう。お気に入りのハーブティーをいれソファーに腰掛けた。
 しばらくそうしていると……薬が効いてきたせいもあってか、少しずつ、睡魔が襲ってくる。この時の感覚は、ふわふわと浮いているようで好き。