「――家、こっち方面でしょ?」

 「そうですけど……どうしてわかるんですか?」

 「だって、美咲ちゃんの匂いがするし」

 「っ!? 私……臭いますか?」

 「違う違う! なんて言うのかなぁ。オレたちだけがわかるっていうか。とにかく、臭いとかじゃないから安心して」

 私に合わせているのか、歩調はゆったりとして歩きやすい。色々と話も振ってくれるから、変に気まずいと感じることもないまま、いつも立ち寄る丘を通過し、もう少しで家に着く距離に差し掛かった――その時。



 「――ミヤビ」



 突然、足を止める雅さん。様子をうかがえば、笑顔のまま後ろを振り向く。

 「なにか用事?」

 「安心しろ。お前に用は無い」

 そこに現れたのは、叶夜君だった。
 初めて会った時とは違い、今は最初から怒りを含んだ視線をこちらに向けていた。

 「彼女から離れろ」

 「アンタに指図されるいわれはないね。それにさぁ――結局、調べてないんだろう?」

 「彼女の回復を優先しただけだ。特に他意はない」

 睨みつける叶夜君。あの日とは違う雰囲気に、私は恐怖を感じ始めていた。

 「別に、美咲ちゃんだってイヤがってないし……ね?」

 いきなり手を引かれたと思えば、今度は肩に手を置かれ、隙間がないくらい密着されてしまった。そしてそのままの状態で叶夜君に視線を向け、

 「だからさ……デートのジャマ、するなよ」

 挑発ともとれるような、そんな言葉を口にした。
 艶やかな声に、ドキッと跳ね上がる心臓。間近で聞くには、まだ慣れそうになくて。私はまた、あわあわと慌てることしか出来ないでいた。

 「いいから……とっとと離れろ!」

 そう言って、叶夜君は雅さんと反対側に立ち、私の肩に手を置く。

 「あ、あのう……?」

 今私は、二人に挟まれた状態。私の頭上で、二人は火花を散らしていた。

 「早く離せ」

 「それはこっちのセリフ。デートしてるんだから、ジャマするなよ」

 一瞬、叶夜君の顔が険しくなった。このままだと、二人の仲がどんどん悪くなるのは目に見えている。

 「あ、あのう。私は……」

 「そんなことは関係無い。こっちは彼女に用があるんだ」

 「用事ならここで済ませてよ。そして、すぐに帰って」

 「だ、だから、私の話を……」

 「随分と偉そうだな。――あの夜、逃げたくせに」

 今度は、雅さんの顔が険しくなった。すぐ笑顔に戻るも、心なしか、目が笑ってないように思える。お互い一歩も引かず、未だ私の声も届かない。あまりにも聞いてくれない二人に、さすがにそろそろ……いくら私でも恥ずかしいのを通り越して、ふつふつと、怒りが込み上げてくるのを感じた。

 「美咲ちゃんに嫌われると思ったから引いたんだよ」

 「だから話しをっ」

 「どうだかな。ただ怖かっただけなんじゃないか?」

 一向に話を聞いてくれない二人。次第に話しかけることをやめ、私は無言になっていった。

 「どーでもいいだろう? 今はどっちが美咲ちゃんといるかって話しなんだけど?」

 「なら、お前が手を引け」

 この後どちらが私と過ごすか、みたいな話の流れ。相変わらず、私のことなど無視して話が進んでる。