「決まりは守る。だが、そっちのやり方は気に入らない」

 「気に入らないもなにも、別に違反はしてないだろう? 調べるのは気配の違う茶髪の女。該当者の血を調べること。それには吸血も許可されてる。――ほら、オレはなにも違反してない」

 「関係無い者の血を吸ったくせに、よくもそんなことを言えるな」

 「仕方ないだろう? こっちにはこっちの事情があるんだから。――アンタにだってわかるだろう? 特に、そこの子の匂いを感じた今なら」

 私の……匂い?二人が言ってることなんてわからないけど、それが私を調べる要因なんじゃないかと、頭を過った。

 「――残念」

 そう言って、叶夜君はふっと笑みをもらす。

 「彼女に触れたから、調子がいいんだよ」

 次の瞬間、私は少年のぐいっと私を引き寄せた。
 胸に顔を押し付けられ、どうしたものかと少しパニックになっていれば、ちょっと我慢なと、やわらかい声で少年はささやいた。
 じ、じっとした方がいい……んだよね?
 恥ずかしいと思いながらも、今は大人しくするしかないと思い、黙ってその言葉に従うことにした。

 「この子はオレが調べる。お前らに渡したら、どうなるか分かったものじゃないからな」

 「一方的に悪く言わないでくれる? そっちだって、裏じゃどんなことしてるんだか」

 「……別に、否定はしない」

 私を抱く腕に、少し、力が込められる。何かに耐えているのか。チラッと横目で見た少年の顔は、どこか辛そうに見えた。

 「とにかく、今はお前と争うつもりはない。――だが、もしお前がその気なら」

 途端、がらりとその場の雰囲気が変わる。肌に突き刺さるような、冷たい感覚が辺りを包んでいき、

 「ルールとか関係無しに、相手してやる」

 最後の言葉が、なんとも鋭く言い放たれた。
 私と話していた時とはあまりにも違い過ぎて……その言葉には、とても威圧感があった。

 「…………」

 「…………」

 しばらく、無言の二人。どれぐらいそうしていたのか。まだ一分も経っていないような、でも随分長いようにも感じられて。呼吸をするたびに、酷く疲れてしまいそうなほど。この場の空気は、重いものになっていた。

 「…………」

 「……ま、今は引いてやるよ」

 最初に動いたのは――男性。
 忌々(いまいま)しそうに言葉を発したと思えば、それからなにも仕掛けて来ることはなく、その場から立ち去って行った。
 い、いなく、なった……。
 途端、それまで張り詰めていたものが無くなり、思わず安堵のため息がもれた。

 「――本当に行ったか。悪いな、いきなり抱いて」

 そう言って、叶夜君はゆっくり、私をベンチに座らせてくれた。

 「どうして外に出た。しかもそんな姿で……」

 外に行く格好ではないだろう? と、隣に腰かけるなり、心配そうにたずねた。すぐにでも私にあるなにかを調べられるんじゃないかって警戒したけど、今のところ、危ない雰囲気は感じない。

 「ゆっくりでいいから、話してくれないか?」

 「…………」

 優しく語りかける叶夜君。本当に心配してくれてるんだと感じた私は、ゆっくり、少しずつ言葉を発していきながら説明した。

 「……気が付いたら、公園にいて」

 「自分の意思ではないのか?」

 「は、はい。声がしたと思ったら、目の前が、真っ白になってしまって……」

 「そうなる前に、誰かと会ってないのか?」

 「誰にも。――最後に会ったのは、おじいちゃんだけです」

 腑に落ちないのか、少年は小さく首を傾げる。