音楽的とは言えない堅い声が、満ちていたカノンを一息に吹き飛ばし消してしまった。

楽器は肩にと載せたまま、けれど弓を持つ右手は、下ろしてしまう。

続けていて欲しかったのか、がっかりしている気持ちがあることを、シェリーは不思議に思っていた。

自分の存在に気づいて欲しいと、それだけだったはずなのに。

とらわれていた。彼の音楽に。

今。


「シェリル・フィデリティ」


 ため息のように、名前を言った。

まったくあきれる。何をしようと思って、ここに姿を現したのか。

聞き惚れるだけなら、外に突っ立ったままでいなさい。

「誰だ?」