焼きそばの出来上がりと同時に、夜美の奇妙な歌も終了したようだ。
「じゃあ、いただきましょうー」
「はい、いただきます」
 しばし、二人とも食に没頭する。育ち盛りゆえ。

「彩月、ちょっとこれ食べてみなよ」
 そう言って、見るからに辛そうな自分の焼きそばを箸で取り上げて、私の方に示す。
「むうう、何か凄く辛そうな感じ」
 しかめっ面を夜美の手元に向けながら私は答える。
「大丈夫だって、そんなに辛くないよ」
「本当かな、まあ一口だけなら」
 そう答えると、私は口を開ける。
「うんうん、一口だけ」
 夜美の手で、焼きそばを口に入れてもらう。しばらく、自分の口の中で味わってみる。
「!?!、辛い!すっごく辛い!」
 思わず口元を抑える。感覚で言うなら火が出そうな感じだ。
「あはは、大丈夫彩月ーはいコーヒー」
 夜美が嬉しそうに差し出してくれたいつものコーヒーを飲んで、ようやく一息つく。
「やっぱり夜美とは舌の構造が全く違うみたい。これはもう私には辛すぎて駄目」
「うーん、そんなに辛くないと思ったんだけど。ごめんね」
 ちょっと心配そうな顔つきになって私の方を覗き込んでくる。少しフォローしてあげたくなったけど、もう二度と同じ事をしないで貰いたいので、何とか苦笑いしつつ、夜美の頭を撫でるだけで、我慢しておいた。

「いやー美味しかった。満足!ごちそうさまでした」
「うん、ごちそうさま」
 二人とも食べ終わって、食後のお茶時間。ふと気づけば、窓の外から聞こえていた音は完全に聞こえなくなっていた。
夜美が視線を窓の外に向ける。
「雨、止んじゃったみたいだねえ」
 ちょっと残念そうなのは、夜美にとって毎度のこと。夜美にとっては、古くからのお友達との、しばしのお別れなのだ。
 私は夜美の残念そうな心音に先回りすることにする。
「ちょっと、散歩行く?夜美、雨の止んだこの時間も大好きだものね?」
 夜美は、私の方に向き直って、いつものように嬉しそうに笑う。
雨が上がった後の、水素を含む空間もまた、夜美は愛しているのだ。
「うん!あ、久々に子供の頃に良く行ったあの神社まで歩いてみようよー時間的に暗くなる前に戻って来れる筈!後は、いつものスーパーとお店に寄って晩ご飯の買い物しようね。あとあと……」
 眠りの姫から、目覚めて水に愛される姫に戻った夜美は、その心の赴くままに、自らの望む水素を求めて、王子を引き連れて、歩き回ろうと思っているみたいだ。