音のない空間に飛び込んできた常識外れの客を見て、ウサ耳生やしたタキシード姿の男店員はあからさまに嫌な顔をした。


 「おね、お願いします!も、もぉ、ぼ、ぼく!ここしかなくて!」

 ピクリと眉を振れさせ、男は顎に指を置いた。
 
 「…お客様…と言うわけではないようですねぇ」

 ウサ耳生やした店員は背後にある階段を見た。

 「…どうぞお進み下さい」

 
 ニコリと愛想のいい笑みとは対照的に、声はどこまでも冷たかった。

 店員の豹変した態度に困惑しながら青年が店内に足を踏み入れると同時に、数十個の目が青年を追った。

 店員から向けられる目は敵意でしかなくとも、鈍い青年には分からない。