奈央の母親の握りしめた拳が空を切ったかと思うと、その拳は依頼人の頬に───‥
ぶつかる寸でのところで、その拳は隆史さんの右手に収まった。
「な、菜々子…殴っちゃだめだろう。」
どもりながら、おどおどしながらの口調だが、それは口だけであって…隆史さんはしっかりと奈央の母親の拳を捕まえている。
一家を支えるように、どっしりと重く───‥。
奈央の母親…菜々子さんは、依頼人の顔を見たあとでゆっくりとつかまれた手をおろした。
「でも───‥あまりに酷すぎるわよ…こんの男ッ!」
青く静かに燃える炎は、赤く激しく燃える炎より───‥何十倍も危険だ。
「ほんとあんたッ…何考えてんのよ…。」
怒りは涙へと変わってゆく。
しんみりとした空気に、そっと奈央に目配せすると、奈央のその大きな瞳が揺れていた。
「…悪い。…悪ふざけが過ぎてしまった…。」
絞り出すようなその依頼人の掠れた声に、菜々子さんは嗚咽を漏らして泣いた。
「…な、な‥なこ…。」
隆史さんは戸惑いながら、菜々子さんに居たたまれない視線を送った。

