その直後、和音は音を止めた。

誰かが部屋の中に入ってきたことに気づいたわけではなかった。

“音の響き方が変わった”

そのことに気づいたのだ。

「……おや」

額に汗を光らせながら振り返ると、良い香りのするマフィンとブランデーミルクが目に留まった。

ふっと笑みを零して、トレイのカップへ手を伸ばす。そこにウサギの形のメモ帳が添えられていた。


『お兄ちゃん、いつもありがとう。それから、あんまり無理しないでね』

これはかわいらしい丸文字。

『これ飲んだら寝るんだよ』

こちらは模範となるような綺麗な字。



「大丈夫だよ」

和音は微笑んでカップを口につける。

こうやって気遣ってくれて、ありがとうと言ってくれるから。

だから、頑張れるのだ。










和音のシャコンヌは、オスカー・シュムスキーの重厚感溢れる演奏がイメージです。