最強の者が佇むのは、紅の世界。

黄昏の色よりももっと濃い、猛者達が築き上げる、血が沸騰した色に揺らめく世界。


ゆらり揺らめくその世界で、スペシャルバカが川蝉を身に突き立てられたまま倒れたときには、拓斗も声を上げながら立ち上がった。

駆け寄っていく自身の師と彼の恋人(拓斗はそういう認識)や仲間たちに混じり、特設リングまで飛んで行こうと思った。

しかし。

「彼は、大丈夫じゃないかな」

隣で観戦していた兄、和音の静かな声に、沸騰しかけた頭を覚まされた。

「君の尊敬する友人は、そんなに弱くないだろう?」

静かだけれども、周囲から湧き上がる悲鳴の波にかき消されることのない、力強い言葉がゆるりと拓斗を包み込む。

笑みが浮かんでいるわけではなかったけれど、それは拓斗を落ち着かせるには十分な、“いつもの”兄の顔だった。