少し冷たい朝の空気を吸込み、シンディはバルコニーで軽く伸びをする。


手摺りに両手をつき、街の向こう側に広がる森に視線を向けた。



…結構広いな…



あの広さだと携帯もあまり役に立たないかもしれないと考え、彼女は部屋に戻るとザックに地図とコンパスを仕舞った。



用意を終えて宿の隣にあるカフェに向かうとテラスで朝食を取りながらソフィアの手帳を開いた。



…確か森の事が書いてあったような…



ペラペラとページを捲っていると、『おはよう』と声を掛けられて顔を上げた。



『おはよう、ロイ。時差ボケはもう大丈夫?』



『ああ、大丈夫。』



そう言ってからウェイトレスにコーヒーを注文すると、シンディの手元に視線を向けた。



『…それはソフィアの手帳?』



『ええ』と短く応えながらシンディはロイに手帳を向けた。



そこには森で迷って一晩中歩き回ってしまった時の事が記されていた。



『…この森はオルレアンなのか?』



『ええ。昨日ユグドラシルの話を聞いて思い出したの。ソフィアはこっちに居る間に森で遭難した事があったの』


その手帳によれば、山や森に出掛けるのが当時の彼女のストレス発散方法だったらしい。


基本いつも独りで出掛けていたようで、シンディも何度かそんな話を聞いた記憶があった。


寂しくないかと訊ねると、彼女は独りの方が気が楽だと答えた。



『誰かに合わせるのがしんどい時ってあるでしょ?』



そう言っていたが、後になって考えたら彼と別れた後でもあったし人間不信になっていたのかもしれない。


彼女が亡くなったと報せを受けた時、真っ先に遭難事故が脳裏を過ぎったが、そうではなかった。



ソフィアが遺体で発見されたのは、彼女のアパートの寝室で眠っているような状態だった。