夜が来た…。



月はなく、辺りは闇と化す。



微かに風があり、木々のざわめくその音すら不気味に感じられた。



いや、不気味だと感じたのは自分の気が張り詰めているからかもしれない。



虎太郎は人通りの少なくなった街並みを見下ろし、深呼吸するかの様にゆっくりと息を吐いた。



ふと、肩に重みを感じて彼は視線を向けた。



いつの間にか眠ってしまったらしいリサに小さく微笑むと彼女の髪を撫でる。



「…無理して付き合わなくてもいいのに…」



そう独り言を呟いてみたが、内心彼女が一緒に来てくれたのが嬉しかった。



ハニエルである虎太郎が人間界へ降りると打ち明けた時、彼女はムッと口を尖らせ不機嫌そうに言った。



『また私に押し付けるつもり?』



もちろんその言葉は彼女の本心なんかではない。



『リサ…それを言うなら“また私を置いて行くの?”…だろ?』



彼がそう言うと彼女は顔を真っ赤にして反論していたのを思い出して笑えた。