ドアをノックする音がしてイザベラは目を開けた。



依然として窓の外は雨…。



『そろそろスタンバイです。』



ドアの隙間から顔を覗かせた劇団の若手スタッフがそう言うと、彼女はゆっくりと身を起こした。



『そう…もうそんな時間なの…』



『はい。雨ですけどお客さんの入りは多いですよ!』



目を輝かせる彼を見てイザベラはフッと笑った。



スタッフは何故彼女が笑ったのか理解出来ず、首を傾げた。



『あの…何か?』



『ううん。なんでもないわ。』



『そうっすか…?』



ドアを閉じかけた彼をイザベラは『ねぇ』と呼び止める。



『雨は…私も嫌いだけど、それが幸運を運んで来る事もあるの。』



『はぁ…』



『今日の雨もきっとそうよ。いいステージになるよう、頑張りましょう。』



『はいっ!』



スタッフが出ていったドアを見つめ、彼女深呼吸する。



その吐息は雨音にかき消された。



─あの日のロバートの様に。