ホテル“グランパレス京都”…この辺りでは辛うじて一流のリゾートホテルである。



ホテルウーマンを夢見ていた学生時代、この“グランパレス京都”で働く事は憧れだった。



その願いが叶った時は言葉では表せないほど嬉しかった。



勤続4年目の“沖田しのぶ”はその頃を振り返り、「若かった」と思う。



休憩室でタバコを噴かす彼女に、同僚の田所が「よぉ!」と片手を挙げて入って来るのが見えた。



「火、貸して。」



タバコくわえたまま喋るもんだから、一瞬何を言ってるのか判らなかった。



しのぶが苦笑しながら彼のタバコに火を付けてやると、「さんきゅ」と言って隣にドカッと座る。



「…なんだ、覇気がねぇな…」



「覇気なんて随分前からないわよ…。」



「ハハハ…確かに!」



田所は接客が天職と言っても過言ではない程の人間だった。