『ロバート、殆ど残業しないでしょ?噂じゃ奥さんが入院中らしくてね…』



『えっ…?奥さん…?』



隣の先輩である女性行員のお喋りに思わず耳を疑う。



『ええ、もう2年くらい前からなんだけど─』



その先の話は憶えていない。



彼が結婚していたという事実に頭が真っ白になっていた。



…私に向けるあの優しい笑みも、甘い囁きも…全て嘘だったと言うの!?



頭の中ではそんな考えばかりが渦巻いていた。



思い返せば彼はイザベラとの関係を隠したがっていた。



『僕はもう歳だからねぇ…君みたいな若くて綺麗な女性と居たら、僕が騙したみたいに言われるだろう?』



彼はそう言っていた。



真意は『周りは自分が既婚者である事を知っているから』という事だったのかもしれない。