昔から雨は嫌いだった。



彼女はこめかみを押さえながらキャビネットからアスピリンを取り出す。



どうも気圧の変化に身体がついていかず、今日のような雨の日には頭痛がするのだ。



『開演まであと1時間か…』



30分位なら寝れるだろうか。



イザベラは目を閉じると数分で微睡み始めた。



ユラユラとした意識の中、短い夢を見た。



そこに見えたのは“あの日”の自分だった。



当時彼女はまだ大学を卒業し、銀行員になって日も浅かった。



業務は予想以上に厳しく、若かったイザベラは早くも転職を考えていた。



そんな時出会ったのがロバートという中年の男性だった。



彼はイザベラと同じ銀行の為替担当者で、普段なら殆ど顔を合わせる事はなかった。