なんでだろう。 目を逸らしたくなかった。 彼も逸らすことなくずっとあたしを見つめている。 そんな彼が悔しそうに唇を噛んだのをあたしは見逃さなかった。 そんな初めて見る表情の数々に、あたしは少し混乱していた。 どうして彼がここまで怒ってくれるんだろうかと。 あたしと夏目涼は、これと言って関係性を示すような名があるじゃない。 ただこの夏、プール掃除を共にしただけだ。 彼の手がスッと伸びてくる。 けれどそれは一旦宙で止まり、そして戻っていった。