「すみませーん、夕先輩いますか?」


 不意に、小柄な茶髪の少年が教室の扉から顔を覗かせた。

 夏ごろから夕と仲がいい後輩である。

「秋雨(しゅう)君じゃない、どうしたの?」

 夕がからあげから顔をあげた。

「いや、保健室がちょっと、またすごいことに」

 そう言いながら秋雨がかわいい顔をしかめる。

「えー?」


 保健室。健康そのものの撫子には縁のない場所である。

 というか、保健の先生がどう見てもいちばん不健康そうだという、不思議な場所でもあった。

 でもまあ、とりあえず。

「行っといでよ、片付けとくからさっ」

 撫子は夕に笑いかけた。

「そう?ありがとねー!」

 夕はからあげ…?いや、最早タバスコのかたまり…?を、口に放り込んで立ち上がった。


 遠ざかる夕と秋雨から、

「ヤンブラコン保健室の壁を崩壊させた」

 だの、

「雪菜ちゃんが暴走して部屋ごと氷漬け」

 だのと、耳を疑うような言葉が聞こえてきたが、気にしないことにした。

 

「さて、じゃー時間まで寝てますか!」

 ハードな練習をこなす体育会系、撫子。

 食事と休息はつねに不足している。

 撫子は弁当を片付けると、騒がしい教室を後にした。