そして、坂の頂上。
ガードレールに手を付き、見た先には夕陽に照らされて橙色をした綺麗な海。
今から出港する船がズラリと並び、隣には釣りを行う人。
秋にも関わらず水遊びを楽しむ恋人たち。

平和だな、なんて叔母さんくさい事を考えていた。
すると隣にいた遥がガードレールに添えていた手をあたしの手を上から包み込んだ。
その行動にあたしはピクリ、身が強張る。


「…ずっと、こうしていたいな」

視線は海。
だけどどこか寂しく。
あたしはそんな遥を見上げながら少し哀しくなる。

何も言わず、ただじっと。
海を見る遥を見つめて。


秋の涼しげな風が夏を吹き飛ばし冬を連れてくる。
空を見上げれば、入道雲は形を崩し横に靡き流れていく。

昼が短くなり、夜が長い。
だから遥に会う時間だって限られる。


「…ね…遥」

「はい?」

「明日も、遥に会いたい…」

遥は目を少し開きまた細める。

「神社で待ってます」

遥は優しい瞳をして柔らかく微笑んだ。
そして細くて長い指をあたしの指に絡ませ、子供のように笑った。


「そろそろ帰りましょうか」

「うん!」


あたしは欲しいものを買って貰った子供のように上機嫌で遥の言葉に従い、手を握った。

帰る途中、カシャカシャと買ったものが入ったスーパーの袋が鳴る。
嬉しいことに遥はあたしの歩幅に合わせてくれて歩いてくれていた。


「美月ちゃん」

「何?」

遥は足を止めた。
反射的にあたしも足を止め、遥を見上げる。
遥は少し困った顔をしていた。


「…貴方を帰したくない…」

「…っ」



胸が熱くなった。
少しだけ焦り、ねだるような遥を、あたしは初めて見た。

大久保家の近く。
遥はあたしの手を握りそう言った。

見られたらマズイという気持ちもあったがそれ以上にもっと見ていたいという気持ちがあった。