聞き間違いだろうか。
あたしの胸は不自然に高鳴った。
変な汗が背中を伝う。
あたしはもう一度翔太くんが言うのを待ってみた。

すると。

「…はっる…遥…!…美月っダメだ…!!」

「っ…!!」

何も言えなかった。
ただ翔太くんの手を握る力を強くしたまで。
“遥”を呼ぶ翔太くんの顔は酷く、苦しんでいるように見えた。

ドックン、ドックン。

嫌な鼓動。
荒れる息。
高まる緊張感。

「…美月…は、るは……る…」

そう言うと翔太くんは大人しくなりスヤスヤと眠りにつく。
あたしはそっと静かに安堵すると翔太くんの汗を拭い取る。
乱れた布団とパジャマを整え音を立てずに翔太くんの部屋を出た。

そしてあたしは糸が切れた操り人形のように崩れ、床にぺたんと座り込む。
嫌に高鳴る胸を押さえながら。


「…なんで…?」

なぜ、翔太くんは遥を知っているの?
前にあたしが呟いてた事、まだ覚えていたの?

『…はっる…遥…!…美月っダメだ…!!』

どうして?
何がダメなの?
あたしと遥が何を……。


あたしは神社に行っていた自分を思い出す。
習慣のように通っていた水城神社。
人通りが少なく、否、人が寄り付かない場所。
それにも関わらず、翔太くんがあたしたちを見ていたとでも言いたいのだろうか。

……ん?

「見ていた…っ!!」

あたしはハッとして口を拭う。
そして重大な問題に気付く。


「……翔太くんはあたしと遥が一緒にいるところを見たっていうの?…」

独り言のように呟くと背後から障子を開ける音がした。
そこにはパジャマを着た体調の優れない未完成な―――翔太くんの姿。


「……見たって…言ったら、どうしろって言うの…?」



翔太くんの顔は熱帯びていて、また、怒りを表していた。

あたしはふらつきながらもあたしを見下す翔太くんをただ見守る事しかできなかった。