この時、あたしにも何が起こったのか分からない。
いきなり鬼が空中に浮いて、凄まじい勢いっ道路に叩き付けられ、ナイフは音を立てて道路に落ちた。

「ふぅ…」

遥は手を叩き、あたしの方へ歩み寄る。

「遥…」

「美月ちゃん大丈夫ですか?」

遥の口調はビックリするぐらい、さっきとは別人だった。
穏やかな口調に柔らかい笑顔。
あたしの大好きな遥だった。

けど。

「その格好、癒されますね」

「っな!!!」

やっぱり、変態だった。









その後、あたしはちゃんと浴衣を気直し、警察へ電話をした。
連続殺人事件の犯人《ネモトカズキ》は刑務所に行き、全国的に安堵の声があげられていた。

テレビのニュース、インターネットのホームページ、ラジオ、新聞などで報道され、なぜかあたしが捕まえたと、されていた。

取材やテレビ出演を申し込まれたがあたしはキッパリ断り、警察官からの表彰だけされて、この事件は終盤を迎えた。


「じゃ、あたしらは帰るわ」

「バイバイ!美月!」

「バイバイ」

それから花恋と美波は帰り、あたしには平凡な日が待ち受けていたのだ。








「美月ちゃん、大変だったね」

「うん…。ちょっと疲れちゃった…」

あたしは遥の隣にいる。
二人で踊り場に腰を掛け、緑の木を眺める。
普通の木なのに、なぜか特別に見えるのだ。
遥と見ているからかな。

「じゃあ、頑張った美月ちゃんにご褒美をあげないとね」

「ご褒美…?」

「うん」

そう、遥は微笑むと、自分の口に何かを放り投げると口の中で何かモゴモゴした。
そして、あたしに口付けをした。

「ん…」

甘い匂いがした。
すると、遥の舌があたしの口の中に滑り込み、何かをあたしの中に入れた。

そして唇は離れる。
と、あたしの口の中にはあめ玉が一つ。
口一杯にその味は広がった。

「どう?」

「…甘い…」

「じゃ、俺にも…」

またあたしたちは口付けをした。
口の中に遥の舌が入り込みコロコロと飴が転がる。
水っぽい音が異様に響いて恥ずかしかったが、あたしは遥の思うがままに身を委ねた。






――――この時、翔太くんが見てるなんて知らずに…。