あたしは恐くなりテレビの電源を消すと、画面を真っ黒にしたテレビを見つめた。

ドックン、ドックン。

耳を澄まさなくても聞こえる荒く弾んだ鼓動。
近くで泣いていた蝉が泣くのを止め、どこかへ飛んでいった。

近くにいる。
ただそれだけが怖くて恐くてたまらなかった。
あたしは気持ちをはぐらかそうと首を大きく振り、立ち上がる。

「…浴衣、着てみよ…」

あたしは逃げるように、板ぶきの廊下を音をならして駆けた。
なぜか今日はテレビが恐くて仕方がなかった。






「どうかな?」

美波が恥ずかしそうに、浴衣を着て見えてくれた。
胸まである髪をおろして、小さな髪飾りを付けて。
黒を基調とした大人っぽい浴衣が美波に色気をさす。

「見てみて、どう?」

美波とは裏腹に可愛いデザインの浴衣を着る花恋。
薄い桃色を基調とした女の子らしい浴衣。
肩までの髪がふんわりしていて男の子はまず、見てしまうだろう。

で、あたしはと言うと……。

「きゃー!美月可愛い!」

「結構浴衣、似合うじゃん」

もじもじとしたあたしに誉め言葉をくれる二人。

あたしの浴衣は薄紫色を基調とした落ち着いたデザイン。
所々にちりばめられた色鮮やかな小花が自分でも少しお気に入り。
この浴衣は、達大さんから昨日頂いたもの。
今日の為にわざわざ用意してくれたのだ。

「で?髪は?」

「…えっと…」

髪の毛は何もしないままだった。
それに気付いた美波はあたしにくしとゴムを要求し、あたしの髪を結んでくれた。
うなじが見える高い位置で縛ったお団子。
鏡に映し出された自分を見つめ、呆気に取られる。

「…凄い、美波…」

「当然」

そんなやり取りであたしたちは笑顔になる。
他愛ない事でも笑ってしまう、そんな会話を続け、空が緋色に染まった頃。
あたしたちは八千代祭りに出掛ける準備をし、不安な気持ちを抱え、あたしたちは玄関を出た。









―――八千代祭りに鬼は姿を現した。









騒がしく木々がざわめき、蝉はうるさく鳴き続ける。
八千代祭りを宣伝する貼り紙があちらこちらにある中、木の影に貼られた指名手配の写真が密かに目に映った。
《ネモトカズキ》と言う名の犯罪者の顔が。