どくんどくん、と、心臓がうるさい。

「どうかした?」

日傘をさす遥は、日陰で冷たく、ひんやりしていて気持ちが良かった。
あたしは顔の熱を冷ますべく、遥の着流しに顔を埋める。

するとソッと、遥の手があたしの髪を撫でた。

「…積極的、ですね」

「ちっ、違う!!」

あたしは遥の胸から逃れ、力一杯睨んでから、木陰にあるベンチに腰を下ろした。

ここからは海が見える。
町並みも、緑も。
キラキラとしていて、和やかになる。

「何を見ているのですか?」

遥が微笑みながら、寄ってくる。
あたしはなんの意地も張らずにただ素直な言葉を言った。

「…ねぇ、遥」

「ん?」

遥はあたしの隣に座った。
あたしは海を見詰めながら、続ける。

「…ずっと…て、信じる?」

生暖かい風が髪をなびく。
風に乗って飛ぶ鳥が、切なく見える。

遥は黙ったままだった。

ずっと。
それは簡単そうで難しい言葉。
言うのは簡単だけれど、果たすのは難しい。
遥はそれをしっていて黙っているのかな。

途端、あたしに不安が襲った。

遥が“ずっと”を信じないのであれば、あたしはずっと遥の傍にはいられない。
“ずっと”はその時だけでいつかは別れがある。

別れのない出逢いはない。

この言葉にぴったり合う。
だけど。

「――俺は信じるよ」

遥はあたしの手を握り、そう答えた。
目には、曇りひとつなく、凛としていた。

「信じたいんだ。…この時を。美月ちゃんといる時間を永遠にしたいから」

「――っ…」

遥の口から出た、決意の言葉。
それはあたしの心に甲高く響いた。

“あたしとの時間を永遠にしたい”

初めて、そんなことを言われた。
嬉しくて嬉しくて、あたしの心はじわじわと温まっていく。
目に浮かぶ涙が、視界を揺さぶる。

あたしは、あたしなりの言葉で、遥に伝えた。

「…遥…!ありがとう…大好き…!!」

精一杯の笑顔を見せて、遥の手を強く握り返した。
すると遥は目を見開き、片手に持った傘を手放し地面に落とす。

バサッ。
音がした瞬間。
遥の手はあたしのうなじに回り、一気に遥の顔が近付く。
あたしはゆっくりと目を閉じた。



重なった唇。



閉じた瞳から、零れ落ちる雫。
温風が頬を撫で、あたし達を包み込む。

海上を飛ぶカモメがゆらりと仰ぐ。
木々がざわめき、あたし達を見ているようだった。