空には入道雲。
周囲は艶やかに光り太陽をたくさん浴びている木々たち。
上を向いてみたり、左右、後ろをみたら、木造の建物と畳。

それに隣には、遥。

この環境が初々しい。
時が刻まれる事にあたしの胸は軋む。
時が止まれば良いと、何度思ったか。
地球はなぜ、動いてしまうのだろう。
時計はなぜ、あるのだろう。
時間はなぜ、あるのだろう。

神様は一体、何の為に“時間”と言うものを作ったのだろう。
神様は何をやっているんだ。


あたしは頭で悪態を打ちながら、ぶらつく足を眺める。


「喜怒哀楽が激しい表情をするね」

「え…どうして?」

遥はなぜか愉しそうに笑う。
光が反射し輝く髪。
とにかく、眩しかった。

「美月ちゃんは表情が豊かなんだなーって」

足を組み膝に肘を置き、頬杖を付きながら微笑む。
口元には綺麗な弧が。
細くなった目にあたしは吸い寄せられる。

「…そんなに見ないで下さいよ……」

長時間かよく分からないけどあたしは遥との絡まった視線を自ら解き、目を伏せる。

頬に熱が生じる。
どうしても目が閉じそうになってしまう。
身体が強張って動けない。
とにかく、身体の芯から熱が生まれ、身体中に回り上手く自分を操作できない。

「…ねぇ遥…」

「何ですか?」

気付いた時、あたしは遥を呼んでいた。
なぜだかはよくわからない。
きっと無意識だったんだと思う。

今すぐ言いたい。
だけど言えない。
壊れてしまう、失ってしまうのが怖いから。

「……なんでも、ないや」

そう言って笑って誤魔化した。
遥は悲しそうな顔をする。

笑うのがこんなに辛いって、初めて。
想いが伝えられない苦しい。
遥の悲しそうな顔を見る事に胸が痛む。



あたしは今、気付いてはいけない事に気付いたのかもしれない。

ううん。
随分前から、気付いていたのかもしれない。


想いを伝えられない苦しさ。
素直になりたいのになれない悔しさ。
笑わせたいのに悲しませてしまう辛さ。

遥を想う度、溢れ出すこの気持ちが抑えられなくなる。



あたしは気付いた。


これが本当の“恋”苦しさなんだ、と。





「…気付いたのかな?」

ポツリ、遥が呟いたのだが、あたしには聞こえなかった。




茜色の空が、あたしたちを見下ろす。
そしてまた、時間は時を刻んだ。