重なった身体から感じる体温が、心地好くて、「ずっとこのままで」と、思ってしまう。
遥の背中に回した手に力が入り、離れたくないと、主張する。

だけど遥は何も言わずに顔をあたしの肩に埋めた。
さらさらの髪が、あたしの頬に少し当たる。
遥の匂いが強くなる。
そして、安堵させてくれる。

温かい。
気持ちがいい。
このまま、寝てしまいたい。

あたしの瞼は垂れてくる。
そっと目を閉じると、そのままあたしは睡魔に襲われ遥の胸の中で意識を手放した。


―――…

夢を見たのかもしれない。

あたしと、遥の。

だけど内容は悲しくて、切なくて。
また、あたしの前から大事な人が居なくなってしまったような夢だった。
具体的には覚えていない。

「ん…」

目の前には見慣れない天井。
翔太くん家の天井でもなく。
木材だけど何かが違う。
あたしは身体を起こそうと試みる、が。

「…ぬぉっ」

何かがあたしを制する。
さて、何だろうか。
そーっと腰にある何かを見てみた。
それは。

「…おや?起きましたか」

「はっ、遥!!」

あたしを優しく包み込む遥の腕だった。
あたしは必死に逃れようとするが遥は不気味に笑いだし、よりいっそう抱き締める腕を強めた。

「のぁっ!!」

「何とも間抜けな声だね」

そう言って遥は怪しげに笑っていた。

目が覚めたら、見知らぬ天井を目の当たりに。
起き上がろうとしたら、遥の腕の中で。
あたしたちを包み込む、温かくて柔らかい布団。

要するに、あたしは…。

「…遥と一夜を共に過ごしてしまったのか!」

「その通り」

「……」

「あ、黙った」

え?
え?
あたしは…あのまま眠り…。

遥の腕の中で寝た!?

「うわぁぁぁぁあ!!」

遥は何も無かったようにニコニコし、布団から出て行った。

「やれやれ」

頭を抱え込むあたしを見て、遥は微笑する。
着物を着ると遥は、「さぁ、帰りますよ」とあたしに微笑みかける。
歩く遥にあたしは慌ててついていった。