あたしは足を進めた。
石段を一段、一段、足を踏みしめて重たい身体を持ち上げる。
今宵は月が丸く、きらびやか。
無言のまま、あたしは遥に手を引かれ、登り行く。
大きくて生暖かい手が、あたしの手と心を包む。
あたしはその手に安心を覚えると、強く握り返す。
遥は一度横目であたしをチラッと見るが、何も言わずに足を進めて行った。
石段を全部登り終えた直後、あたしは立ち止まり、石段の下を見る。
何もない。
翔太くんも来てない。
あたしはその事に安堵すると、正面を向きな押す。
「…どうしたんですか」
遥が目を細め、疑いの眼差しで問い掛けた。
だけどあたしは俯き、ただ首を左右に振るだけ。
なぜだか、思うように口が開いてくれない。
「…そうですか」と、声にならない声で遥は呟くと、また足を進めた。
真っ赤な鳥居があたしたちを出迎えて、もうあまり付いていない桜の木が、ざわめく。
コトコト、遥の下駄が参道を刷る。
何やら不気味だった。
夜だからかな。
心臓が異様に速く動く。
怖い、とかじゃない。
ただ、初めて夜にここに来たからどこか緊張しているがだけ。
それに…。
前を歩く、遥に。
手を繋ぐ、遥に。
近くに居る、遥に。
緊張してる。
きっと、全部、このせい。
耳をすまさなくても、聞こえる鼓動。
ドクン、ドクン、と。
あたしは余ってる方の手で、胸を掴んだ。
そして、あたしと遥は踊り場に腰を下ろす。
離れてしまった手が、だんだんと熱を冷ましていく。
ふと、あたしは遥を見上げた。
だけど遥は、あたしより先に、こっちを見ていた。
絡まる視線。
遥の口元がうっすら開いた。
「…もう、いいでしょ」
あたしはその言葉の意味が、直ぐにわかった。
あたしの過去を言う事。
それに、あたしの全てを話すこと。
「……うん…」
あたしは頷き、遥を愛しく見上げる。
きっと大丈夫。
遥は。
遥は全て受け入れてくれる。
だって、あの日、言ってくれたから。
『俺が全部受け入れるから』
あの言葉、信じていいの?
違う。
疑問系じゃないね。
あたしはあの言葉、遥を。
信じようと思います。
「――あのね」
重たかった唇が、開いた。


