闇夜に照らされ、漆黒に煌めく“彼”は。
魅惑的なその姿。
おっとりとしているが、綺麗な声。
あたしは涙で歪む視界で、必死に遥を認識しようとするが、全く見えないのだ。
ただ、ひたすら泣くだけで。
「…何があった」
遥があたしの頬に、手を当て、壊れ物を扱うかのように、優しく撫でた。
流れ出る涙を止めようとするのに止まらないあたしの涙は、頬を濡らし、遥の手に流れる。
遥に応答出来ないくらい、あたしは泣くしか出来なかった。
「…美月」
泣き崩れるあたしを覆い隠すように、遥はあたしを抱き締める。
温かかった。
今のあたしは何もかも冷たくて、遥の温もりが熱いくらいだった。
侵食されたあたしの心が、遥の温もりで修復される。
「……は…る…」
これでもあたしは、力一杯遥を呼んだと思う。
「…君は独りじゃない。……ずっと、ずーっと…」
遥は何を言っているんだろう。
あたしには理解が出来なかった。
だけど何もできない無力なあたしはただ頷くことしか出来なかった。
遥の胸は、意外にも広くてたくましかった。
あたしは遥の背中に腕を回し、抱きつく。
そして、泣いた。
泣いて、泣いて、泣いて。
ただ、泣いていた。
そんなあたしを遥は強く抱き締めた。
温かい。
“遥”の言葉が。
温かい。
“遥”の温もりが。
温かい。
“遥”の笑顔が。
いつも傍に遥が居てくれたら、いいのに。
そうすればあたし、何も怖くない。
恐れるものもない。
―――だけど。
甘えてるよね。
求めすぎてる。
ただの欲張り。
子供のように、泣いて欲しがる、ただの赤ん坊。
そんなんじゃ、駄目。
駄目なのかな。
たまにはいいじゃない。
赤ん坊みたいな欲張りだって。
神様は許してくれるかな。
「……後になって…後悔してしまっても、しりませんよ」
遥の呟き声は、あたしには聞こえなかった。


