時は巡り、5月半ば。
あたしは気付けば水城神社の常連さんになっていた。
行っては遥と語り合い、笑い合い、とても楽しい時間が流れていた。

今日も神社へ行き、遥と話したんだ。



―――…


「もうすぐ春も終わりですね」

「あー、確かに」

遥はどこか悲しそうに、遠い目をして、春が過ぎることを寂しそうに告げる。
あたしはただ、どうでもよかったから聞き流す。

春が終わる?
そんなのどうだって良かったんだ。
遥がどうしてそこまで春が終わる事を嘆くのか、申し訳無いけどあたしには理解できない。

だって、そんなものよりあたしはもっと大事な“関係”を無くしてしまったから。

“恋”という、この感情も。

「…美月ちゃん」

「ん?」

遥は真剣な表情をする。
あたしは少しばかりとぼけてみるが、遥にさらりと言われてしまう。

「教えて。美月ちゃんの事、全部」


隙を見つけると、いつもそう。
遥はあたしの手を握り、顔を除き込んでくる。
艶やかな遥の瞳が、あたしの心を揺るがす。
とくん、と、鳴る何かが身体の芯から熱を引き出してくる。

これで何度目だ、と、小さく溜め息を付く。

「…ごめん。まだ言えない」

あたしはしおらしく言う。
遥の手から、じわじわと熱が入り込み、火傷しそうな程熱くなる。

「……わかりました」

パッと、手が離れると、遥は空を見てこう言う。



「……恋と言うのは、儚いもの……」

あまりにも小さすぎるこの声に、あたしは耳を傾けることが難しかった。


儚いもの。


“恋”。


そんな事を言える遥は、“恋”をしたことがあるのだろうか。




―――…


陽が暮れて来たからあたしは真っ直ぐ大久保家の屋敷へ帰って行く。

遥の声と表情を思い返しながら。