―――…


あたしは過去を振り返った。

“明後日”ってお父さんが言ってたけど、そう言えばあたし、熱だしたんだよね…。
それで引っ越すのが遅くなってお母さんがピリピリしちゃって…。
結局、4月からで。
まぁ、それはおいといて…。
えっと…それで…。

あたしには“婚約者”がいて、その“婚約者”は、お父さんの会社と交友関係を結ぶ、会社の社長さんの息子、“大久保翔太”。
噂によると、背が高く、頭も良く何にも全力で打ち込み、何よりも笑顔が素敵で最高級のイケメンらしい。

もちろん、そんな噂を聞き付けて不満なんかない。
むしろ、超タイプ。
だけど、そんなイケメンにピンとこないあたしはきっと…―――今までの“男”のせい。

…いや、違う。
全部あたしのせいなんだ…。

ふと思い出す、苦い過去。
涙、涙、涙。
苦しくて、悲しい、悲劇。
思い出したくないのに、思い出しちゃうんだよね。

…こんな過去、消えちゃえば良いのに。

あたしは窓ごしの風景を遠い目で見ていた。
チクチクとなる、あたしの胸元をぎゅっと、片手で握る。

すると、景色は曲がり…、いや、あたし達が乗る車が曲がり、美しい景色は見えなくなった。

ただ、アスファルトの壁があたしの好奇心を崩す。

「あ~あ」

吐息混じりに言ったあたしの言葉は、きっとお母さんには聞こえてないだろう。
お母さんをチラッと見てみると、お父さんと笑いあっていた。
そのことに安堵すると、あたしはまた窓の外を見た。






「――…っ」







今、窓の外に石の階段があった。
そのことになぜかあたしの思考は停止する。

今の、何…?
どうしてあんな石の階段なんかに…。
こんなに、こんなに……。




胸が騒がしいの…?




あたしは首を左右にふり、我に返ると“婚約者”に会うのに緊張を無理につくる。
さっきの気持ちを紛らわすように。

「さ、もう着くぞ」

お父さんの声にあたしは硬直する。
そして、シートベルトを外した。





今のあたしはまだ知らなかった。
石段の頂上の事も、“婚約者”との関係も。





“貴方”の事も…。