「それで、お相手は、お父さんの会社と交友関係の大久保さんの息子“大久保翔太”くんだ」

ペラペラと単語を並べる、マイペースなお父さん。
そのマイペースさに、あたし達は何度、大変な思いをしてきたか…と、自分をなぐさめる。

…まぁ、お父さんがなんと言おうと、私は…。

「却下」

お断りします。
当然のこと。
だってさ…。

「言うなら溜めとかないで、早く言うべきでしょ!?もうすぐ高三にもなるのに、あたしだって暇じゃないの!受験だってあるし、勉強一筋で―――」

「それなら心配ないわよ♪」


…ないわよ
…ないわよ
……いわよ
………わよ
…………よ…。

あたし頭の中で、お母さんの楽しげな声が山びこのように、響く。
“心配ない”。
その言葉の意味がわからない。

「…どいゆう、意味?」

恐る恐る聞いてみた。
あたしはお母さんの口が開くのを見て、ゴクリと喉を鳴らす。
流れる沈黙にあたしは耐えられずに、お米の入ったおわんを片手に持った。
その直後。

「美月、優秀だから跳び級して卒業することになったの」

「……、はぁ!?」

裏返った声。
あたしには理解できなかった。

“優秀”?“跳び級”?
アホか。君たちは。
まぁ確かに、あたしの通ってる学校は跳び級になることはありますよ。
だけど、高二の時点で卒業なんてないじゃない!!
…もうめちゃくちゃだよ。

“学校”も“男の子”も何もかも…。
すべて。

「――!!」

ふと、我に返ると、頭をくしゃくしゃにかく。
だめ。
もう、あんなこと忘れて。
あたしの中から消し去って。

小さく溜め息をつく。
そんなあたしにお父さんは苦笑する。

「で、急だけど明後日、“大久保家”にお引っ越しするから、準備しておくこと」

「――ちょっと待ってよ!」

あたしはうつむいていた顔をあげる。

まだ、明後日、学校とか普通にあるよね!?
後期だって終わってないし、高二の人生、楽しく過ごせるよ!?
「なんで!?」と、言いたいところだけど、喉までいったあたしの言葉を身体が強制的に制する。

あたしはその時、小さく頷くことしかできなかった。