どくん、どくん、どくん。

強く打ち付ける鼓動がうるさい。
「どうしよう、どうしよう」あたしの頭はそれだけしか考える事しか出来ない。
違うことを考える余裕など、全く無くて。
あたしの思考はぐちゃぐちゃにかき乱される。
「何をどう考えれば良いのか、どう行動すれば良いのか」と、あたしはこの状況にただ“怯え”、冷や汗をかくのであった。

すると翔太くんは寝返りを打つ。
あたしの心臓はどきり、いや、そんな程度じゃないくらい、跳ね上がる。
息の仕方すら忘れる程、あたしの脳はぶっ飛んでいた。

あたしは動かず、ただじっと、その場にしゃがみ込んだままで。
動いたら微かな音がして、翔太くんが起きそうだから。
あたしはただじっとしている。


だけど…。

もし起きてしまったら。
あたしの事に気づいてしまったら。
いや、完璧気付く。
あたしはその事に、ただただ“怯え”て、いた。

『寝顔見るとか、マジないわ』

そう、言われるのが怖いから。

翔太くんはあたしの“婚約者”。
だからこそ、翔太くんにはあたしの事を悪く見て欲しくない。
嫌われたくない。

見捨てないで欲しい。


あたしは静かに顔を伏せると、ふと、思い出す。

『俺はこれっぽっちも離れる気は、ないから』

回想された遥の言葉。
あたしの心は徐々に温かくなって、冷たく、硬くなった心を解してくれる。

翔太くんは、翔太くんは…。

あたしの心を解し、温かくしてくれる言葉を。

ねぇ、翔太くん。

貴方は、あたしを…。

「…ねぇ…」

あたしは膝と手を付き、翔太くんの寝る布団に近寄る。
起きたら怪しまれる。
嫌われるかもしれない。
見捨てられるかもしれない。
だけど。

そんなの知らない。

あたしは欲しいだけ。
遥みたいな温かい言葉が欲しいだけ。
翔太くんから。

あたしは欲張りかもしれない。
ううん、違う。
欲張りなんだ。
遥の言葉でドキドキして、もっとそんな言葉をもっと欲しいと血が騒いで。
それで今、翔太くんから、言葉を貰いたいとまた、血が騒ぐ。

ゴメンナサイ。
ショウタクン。
アタシヲ、ユルシテクダサイ。


あたしは、あたしの反対側に向く翔太くんの横顔を見つめる。
柔らかい髪が、横に垂れる。
どくん、どくん、と、鳴る鼓動を速くする。



何故だろう。

そんな翔太くんの横顔を見ていたら、遥に逢いたくなってしまった。