小鳥の囀ずりと共に迎えた朝。
目に映るのは、木製の天井。
見慣れない光景に、少し戸惑いながらも、あたしは身体を起こす。

「朝、か」

ポツリ、呟く。
部屋にはあたし一人。
縁側に向かって張られた障子の間から差し込む光が、目を眩ます。
襖と障子に囲まれたあたしの部屋は、あまり慣れないし、何より寂しいものだ。

「今、何時だろう」と、枕元にある携帯を、手を伸ばして取りにいく。
触れた冷たい物体は携帯で。
冷たさを我慢して開けた携帯の明るい画面には《8:48》が表示。
慌てて布団をはぎ取り、パジャマを脱ぐ。
寝癖も直し、障子を開けた。

「ま、ぶしー…」

たるんだあたしの声が無性に響いて。
あたしは一歩、足を踏み入れる。
靴下越しでもわかる、板敷きの冷たさ。
春だと言うのに、朝はまだ肌寒い。
あたしは、溜め息を吐きながら、頭をかき、歩き出す。

そんなあたしのノロノロとした、今日の朝方。
これがあたしの休日の朝、なのだ。

進んでいくと、何やら人の声がする、部屋があった。
あたしはその部屋の障子を開けた。
そして、笑顔で。

「おはようございます」

目の前にはお母さんと、翔太くんのお母さん。
二人で何か話していたらしい。

「あら、美月ちゃん、おはよう」

あたしはペコッ、と、御辞儀をすると、お母さんが挑戦的な目であたしを見た。

「何か」、と、あたしはお母さんを睨んだ。
お母さんがこんな目をするのは珍しい事じゃない。
きっとこの目は、「起きるの遅い」とか「そんなだらだらして失礼でしょー」とか、言うんだと、思う。

だが。

「良いわねー、美月。イケメンの旦那さんでー」

「は…?」

そ、それかよ!!、と、あたしは呆れてしまう。
そんなあたしたちのやり取りを見て、翔太くんのお母さんは、「ホホホ」と、笑っている。

「ねぇ、夏希さん。出来の良い、息子さんがいて羨ましいわ」

「いえいえ、菜々子さんこそ、美月ちゃん、良い子じゃないの。ねぇ?」

そう言うと、夏希さんはあたしの方を向き、ニコッと笑う。
つられてあたしも、微笑。
夏希さんとは、翔太くんのお母さんで、大久保夏希。
ちなみに翔太くんのお父さんは、大久保達大。
そして、菜々子はあたしの母で、父は圭介。


あたしはふと、視線をお母さん達に戻した。
そしたら、夏希さんとお母さんはまた二人の世界に入っていた。