「……俺が消えたあと、ポケットの中を見て?…それに願い事を書くんだ」

「…願い……事…?」


あたしは首を傾げた。


「そう、願い事。だけどその中にある“おみくじ”だけは見ちゃダメだよ」


ただ目の前にいる笑う遥が愛しかった。
涙は一粒ずつゆっくり流れていく。


「……見るべき時に判断して見てくれればいいよ」

「…遥……肩が…」

「ああ……もう、時間だね。………美月ちゃん」



時間。
もうすぐで遥はこの世から消えてしまう。
あたしの胸は締め付けられた。
遥は柔らかい笑顔で言った。


「……別れのない出逢いはない、そう言ったよね」

「うん…」

「………ならさ、その逆も有り得るよね」



出逢いのない別れはない。
あたしには意味がわからない。
でも遥の言葉だから。
最期だから。

ちゃんと胸に染み付いたよ。


「……また、君に逢えるなら……俺はまた……君に恋をするだろう…」

「………あたしもだよ…」


笑顔で言った。
あたしも微笑んだ。
そして遥は最後に口を開いて、言った。









「またね。……愛しているよ、美月……――…」












遥は、消えた。
粉雪のように。



「遥、あたしもだよ」



涙は一粒、頬を伝った。

遥の気持ち、ちゃんと受け取れた。
あたしの気持ち、ちゃんと伝わったかな?
………伝わったよね。





消えちゃった。
あたしの大好きな遥が。
もう二度と、会わないのだろうか。
もう二度と、笑顔であたしの前に現れることはないのだろうか。




会いたい。




『またね』




遥は“またね”って言った。
それはどういう意味?
“また会える”って意味?
そう、期待してもいいだろうか。
それともあたしが悲しまないように仕向けたもの?







わからないよ。











「………ぅっ…うぇっ……」



我慢していた涙がどっと溢れた。
“悔しさ”、“悲しみ”、“苦しみ”が混ざりあって一つの“涙”という物質に変わりそれはあたしの中から溢れ返った。





やっぱり、あたしにはキツかったよ。
大切な人を失うことは。
そう言えばこれで二度目だね。

切ない恋は嫌だ。
甘い甘い、恋がいいよ。
最後はハッピーエンドがいい。


「………遥…っ…」



あたしは一人、遥の手の温もりを包みながら、大声で泣いた。