翔太くんは言葉をなくしていた。
あたしは言ってしまった事に後悔をする。
誰にも知られないで、自分の中だけで消滅させたかった。
だけど達大さんの言葉があまりにもあたしを揺さぶるからつい翔太くんならわかってくれるって思ってた。
だから言ったのかもしれない。


「…だから――」

「どうして…どうしてもっと早く言ってくれなかったんだよ……!!」

悔しそうに言う翔太くん。
あたしの両肩を掴み身体を離し俯いていた。
少し震えていた翔太くんをただ目を開いて見ることしかできなかった。

「お前は今までこれを自分の中で溜めてたのか……?苦しくなかったのかよ!!好きなやつにフラれて……今までヘラヘラしてたのかよ!!」

「…っ」

また、だ。
あたしはまた翔太くんに怒られてる。
クリスマスイヴと一緒だ。

遥のことで怒られるのは。

だけどね。
それをすんなり聞く程。
あたしは良い子じゃないんだよ。
これだけは無力に近いんだよ。


「いつも一人で泣いて……誰かに相談したりしないのかよ!!」

「……できないよ」

「どうして…!!」

「忘れたいのっ…!!!」


叫びに近いあたしの声に部屋中は静まり返る。
あたしは畳みに向かって叫ぶと、涙はポタポタと落ちていった。
落ちた涙は畳の色を変えていった。
今度こそ翔太くんは黙っていた。

心臓が自棄にうるさい。
怖くて、何かを恐れているようだった。
ビクビクと身体が強張る。
そして頭の中がぐちゃぐちゃになる。
自分の心も真っ黒に塗り潰されて。
もう何だかわけがわからなくなっていた。
“忘れたい”だなんて口で言っても本当は忘れられないのに。
でも………。


『……ごめん、美月ちゃん』


あの言葉はあたしの心を深くえぐった。
だから“忘れたい”なんて思った。
遥を忘れたいのではない。
あの日の遥の言葉を忘れたい。
あの日自体が無くなればいいのに。
消えてしまえば。

消えて。
きえて。
キエテ。
キエテ―――


……ううん。
心の中で、遥自体が消えてしまえば、なんて思ったりもしてた。
忘れたくて、忘れたくて仕方がない。
あたしは馬鹿なのだろうか。
あんなに大好きで大好きで仕方がなかった人を消えてほしいとか、忘れたいとか思ってしまうのだから。