聞こえない。
聞けない。
聞きたくない。
速く、速く。
足、動いて。

あたしは何も聞こえないように、全てを振り払うように全速力で駆け出した。
寒さのせいだろうか、身体がチクチク痛む。
心も身体も冷たい。
暖かいといったら、流れる涙だけ。
頬を流れる度にそこがじんわりと暖かくなるけど直ぐに冷たく乾いてしまう。
あの言葉も、悲しく過る。


『……ごめん、美月ちゃん』


やめて。
聞きたくない。
もう遥の言葉さえ聞きたくないんだよ。


「…どうしてっ…!!」


どうして遥はあたしの事が嫌いなのに、口付けをしたの?
あとになって蘇る遥との行い。
クリスマスイブの夜にだって、あたしたちは愛を確かめあった。
遥は………遊びだったのかな?
雅也と、同じだったのかな?


『……ごめん、美月ちゃん』


どうして謝るの?
ちゃんと“嫌い”って言えばいいじゃない。
それともまだあたしに期待させてるの?


あたしの頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。
まるで狂ったように遥にフラれたことを振り返った。


あたしじゃ、ダメなの?
何がダメ?
体型?
性格?
顔?
髪型?
態度?
………わからない。
遥はどうしたらあたしに振り向いてくれる?
変えればいいの?
あたしが変わればいいの?
そうすれば遥は振り向いてくれる?


「……はる…」


それともあたしは遥とはもう二度と会えないのかな。
さっき言っちゃったもんね。

『ありがとう、ばいばい』

………馬鹿だ。
馬鹿すぎる。
もう、会えない。
会ってくれない。
あたしは自分で道を封じたんだ。
だからもう。



―――遥とは、会えないんだ。



『美月ちゃん!!』


最後に呼ばれたあの声。
何か焦ったような声だった。

あたしがあの時返事をして、止まっていたらまた変わっていたのかな。
まだ、希望はあったのかな。


……遥と、いれたかな。


「っく……ふ…ぅぅ」

胸が苦しいよ。
潰れそうだよ。
遥、遥、遥―――




心のどこかでまだ期待はあったのかもしれない。
遥が追いかけて来るんじゃないかって思っていたけど。






遥は、来なかった。