翔太は眉を寄せた。
ガリガリと畳を引っ掻きながら手に拳を作る。
どういう意味がわからない、どうしてそんな顔をするのかと、翔太は不安げに遥を見つめた。

「……そのままって」

「…………過ぎちゃったんだよ…」

「…は…?」


翔太は耳を傾けた。


「…愛し過ぎちゃったんだよ、美月ちゃんを…」

「―――…」


息をすることを忘れてしまう。
一瞬にして、遥の表情は暗くなり今にも泣きそうだった。


「…だからね、翔太く―――」

「っ…ざっけんな…!!!」


不安と悔しさと恥ずかしさを繋ぎ、怒りへと変えた翔太は立ち上がり、遥の胸ぐらを掴んだ。

「てめえ、いい加減にしろよ!!」

「……」

「何が“頼み”だ!!笑わせんじゃねえよ!!!」


力の抜けた表情をする遥に対しますます苛立ちを増す翔太。
眠る美月は少し唸る。


「……人から大事な女奪っといて……だけどなんか良い奴だなって思ったのにっ…違うじゃねえか!!」

「……」

「俺だってな、出来れば美月をてめえなんかに渡したかねえよ。……だけど、てめえが良い奴過ぎて、手も足もでねえっておもったから、美月を渡しても大丈夫かなって思ったのによ……」


プルプルと身体が震え出す翔太。
遥は唇を噛み締めながら翔太の言葉を一つも溢さぬよう自分の中に取り入れていく。

言いたくないけど出てしまう言葉に後悔してしまう翔太。
悔しくて悔しくて、どうしようもなく遥を憎みたいのに憎めない自分に腹がたって、同時に惨めになっていくのに涙が込み上げる。
徐々に溜まる涙。
懸命に堪えながら目の前の遥に訴える。


「……だから、お願いだから…美月を…独りに……」

「翔太くん」


遥は自分の胸ぐらにある翔太の手に自分の手で包んだ。
凛として冷静な声で翔太に言いかけた。

翔太は耳を塞ぎたかった。
だけど、魔法にかけられたように身体が動かずただ聞くことしかできなかった。




「俺にはもう、時間がないんだ」