―――「あら?美月ちゃん、どこ行ったのかしら」


障子を開けっ放しにした現在病人の美月の部屋。
夏希は誰もいない布団を見つめ、心配そうに眉を歪ませた。
その近くをたまたま翔太が通り掛かる。

「どうかしたの、母さん」

「あ、翔太…美月ちゃん知ってる?」

「美月…?」

翔太は誰もいない布団を見つめた。
途端翔太は呆れた顔をして、思った。

―――全くあいつは。
どんだけ分かりやすい行動とってんだよ。
母さん達にはバレないと思うけど少なくとも、俺が分かること忘れんなよ。
しかも病人なのに…!!!


「翔太?」

怖い顔をしていた翔太に夏希は問い掛けた。

「あっ?うん、さっき、トイレに行ってたよ。腹抱えて」

適当な返事をして軽く笑い飛ばした。
夏希は「なら、放っておいた方が美月ちゃんも嬉しいわよね」と頷き、開けっ放しの障子を優しく閉めて翔太に背を向け歩き出した。
翔太が安堵と呆れの溜め息を吐くと夏希は止まった。

「そうだ、翔太」

その声に少しビックリした翔太。
だけどすぐ冷静に戻り爽やかな笑顔を夏希に見せた。

「何?」

「そろそろ、美月ちゃんが来て一年が経ちそうね」

「…?」

唐突な夏希の言葉に翔太は首を傾げた。


―――…まあ、確かに。
だけどなんで今そんな話を?
……母さんは何を企んでいるんだ?


翔太は息を飲み、口を開いた。

「いきなり、どうしたの?」

「ううん。なんでもないわ♪」

夏希はまた歩き出した。
翔太は冷や汗をかきながらまた溜め息を吐く。

今は2月11日。



―――トイレになんて嘘だけど…。
美月はホントに馬鹿なんだろうか。
こんなに寒い時に、しかも病人なのに。
あいつのとこに行ったことぐらい、わかるんだよ馬鹿!!



翔太は髪をくしゃくしゃにすると居間に行き、和菓子を袋に詰め込み、最後に、薬とお茶を持った。

「母さん、ちょっと出掛けてくるから」

「はーい」

ダウンとマフラーを着て、靴を履き、玄関の戸を開けた。
一気に翔太を取り巻く寒気。
翔太は身震いをしていた。
ふと、恥ずかしさが込み上げ笑ってしまう。


―――…俺も、お人好しになったな。
美月にはあいつがいるというのに。
まだ吹っ切れていない感じがして少し呆れるな。
馬鹿が移った…かな。


「……良いやつ、俺」


翔太は軽い足取りで歩き出した。