「うぅ~~…」


寒さも本場となっても良い程厳しい寒さが私を襲う。
2月10日。
もうすぐ乙女の勝負日。
バレンタインになる。
なのに、あたしは……。


ピピッピピッ。


「……38度…」


体温計とにらめっこ。
重たい瞼と熱い頭が邪魔をしてくる。

そう、風邪をひいたのだ。

“馬鹿は風邪をひかない”と言う言い伝えがあったが頭の良いあたしはその真逆。
優秀過ぎるのだ。
だからといって風邪をわざとひいたと言うことはない。
もうすぐバレンタインなのにチョコレートが作れないという無念さがあたしを呑み込むのだ。


「…早く治ってえ~」

「うるせ、黙って大人しく寝てろ馬鹿」

「っ!?」


首を少しひねり、障子にいる人を見た。
あたしを見下ろすように見る、翔太くん。
開けづらい目を頑張って開いていると、目の前で翔太くんは腰をおろした。

ゆっくりと翔太くんの手があたしの頭に降ってきた。
あたしは少し目を瞑る。
すると頭に何かが添えられた。

自分の身体が熱いせいだろうか、ソレから暖かみが感じられず微かにひんやりとしていた。


「…翔太くん…」

「病人は黙って寝てろ」


その顔は少し笑っていた。
優しくあたしの頭を撫でながら、またあたしは眠りについた。






―――…


夢は海底のようだった。
真っ暗で、何も見えなくて。
行き先などないかのように、あたしはその空間を浮遊していた。

カラン、カラン。

どこか古風で懐かしい音が鳴り響き、あたしは暗闇の中で目を張った。
音の在処を辿ろうとするけど上手く動かない足と思考にそれは遠ざかって行く。

懸命に空間を泳いでいると、景色は光に呑み込まれた。



「ここは…」



自分でもよくわからないが夢の中なのに夢じゃないように言葉を発する事ができる。

辿り着いた場所は見慣れた場所。
水城神社だった。
光の中に有するこの水城神社は泣けるくらい眩しかった。


『――それでね、遥』


ふと、聞き慣れた声がした。
地上に降り立ったあたしは楽しそうに話す“男女”に目を向けた。
まるで恋人のように寄り添う二人はあたしの目に深く焼き付く。


踊り場に座る“あたし”と“遥”に。