「寒すぎる…」


家を出て外の空気を浴びる。
毛糸タイプのタイツを履いていても風が吹く度入り込んでくる。
ぶるっと身体の奥底から身震いをしてしまう。
お母さんは車を出してくるから少し待っててと言い、車庫に向かっていた。

首はマフラー。
手は手袋。
顔が痛いぐらい寒かった。
早く車に…。

「おまたせ」

「う゛ー、寒い寒い」

あたしは年寄りの様に身体を前屈みにし、車に乗り込んだ。
中に入ってもまだ温かいとは言いきれなかった。

「デパートの方がいいかしら」

お母さんはそう言うと道を下っていった。
そういえばこの辺りに指名手配のポスターも貼ってあったなと、過去を思い出す。
浜辺に行ける長い階段の横に立つ白いガードレール。
そこは遥と見た夕陽が今でも鮮明に覚えていた。

「はぁ…」

窓越しに空を見る。
青く澄みきってもないし、曇天のように曇ってもいない。
白く、眩しい空。
目を細くして見上げた。


『美月ちゃん』


いつになったらまた聞けるのだろうか。
この、優しくて温かくて甘くてあたしの大好きな遥の声が。

少し気持ちが暗くなったところにお母さんが口を開けた。

「で、美月は翔太くんにプレゼントあげるの?」

「…うん」

力無い返事をする。
お母さんはまだ知らない。
知っているのはきっと翔太くんと達大さんぐらい。

だから買わないよなんて言えないのだ。
だけど、遥にだって買いたかったのだ。
渡すくらい直ぐに終わるから翔太くんにだってバレない。

「…あと、友達にも買いたい、かな」

「そうね」


お母さんは普通に聞いて流す。
少しホッとした自分がいた。
もしバレたとしたら大騒ぎになりかねない。
黙っているのもあまり良くないがこの件は仕方がない。


「あ、そうそう。美月さ、このあたりに神社があるって知ってる?」

「…しっ、知らない、かな」

「あら。なんかねスッゴいイケメンがいるって噂よ。今度一緒に行ってみない?」

「えっ!?いっ、いいよ!あ、あああたしには翔太くんがいるし…」


我ながら良い嘘をついたと思う。

「そうね。じゃ、一人で見にでも行こうかしら」

「や、やめた方が良いって」

「どうして?」

「えっと…、なんか、縁起悪いじゃん!?見るだけに来たって…」

「あ、確かに」


あたしは少し安堵した。
心臓は飛び出るんじゃないかって程動いていた。